600.抗えないほど優しく

夏川雫は九条結衣がこれほど固執するとは思わなかったので、少し困惑していた。

「はいはい、明日行くわ」

九条結衣はようやく満足し、目の前のまだ一杯のお料理を見て、言った。「胃腸の調子が悪いなら、あっさりしたものを食べましょう」

「うん、結衣が私のことを一番考えてくれてるって知ってたわ」

夏川雫は急いでお愛想を言った。

そして、箸を置くと、キラキラした目で彼女を見つめて尋ねた。「本当にあのバカを許したの?」

九条結衣はC市に行ったものの、二人は個人的によく連絡を取り合っていた。九条結衣と藤堂澄人の再婚のことは、九条結衣が早くから夏川雫に話していた。

今、夏川雫に聞かれて、九条結衣は食事の動作を一瞬止め、二秒ほど考えてから言った。

「私も今どう思っているのかわからないわ。最初に彼との再婚を承諾したのは、完全に九条初のためだったけど…でも…」

ここまで言って、少し間を置いた。夏川雫の前では、彼女は決して自分の心の内を隠すことはなく、正直に言った。

「藤堂澄人は最近、本当に私によくしてくれて…私が彼に対して拒絶的な気持ちを持てないほどに…」

夏川雫は九条結衣の気持ちを理解した。

元々藤堂澄人のことを忘れられていなかったのだから、あのバカが優しくすれば、もちろん拒絶できないはずだ。

でも考え直してみると、結衣のような気の強い誇り高い人が、藤堂澄人が本当に優しくしてくれていると口にするということは、夏川雫も認めざるを得なかった。藤堂澄人は本当に彼女のことを大切にしているのだろう。

そうでなければ、結衣が藤堂澄人のことを忘れられないとしても、こんな言葉を口にすることはないはずだ。

そして先日のネット上の騒動で、藤堂澄人は結衣を守るために、ネット全体の前で藤堂瞳が藤堂家から追い出されたと言い、あのバカ妹に大きな恥をかかせた。

本当に結衣を守りたい気持ちがなければ、自分の実の妹にそこまでの屈辱を与えることはなかっただろう。

そう考えて、夏川雫は言った。「拒絶できないなら、受け入れればいいじゃない。彼が優しくしてくれるのは当然のことだから、心理的な負担を感じる必要はないわ」