603.誰だって姫様でしょう

彼女は自分と藤堂澄人のことを思い出して……

九条結衣は眉をひそめ、夏川雫を見つめながら言った。「雫、田中行に直接聞いたことある?」

夏川雫は一瞬固まり、その後首を横に振った。

「私と藤堂澄人が一番いい例よ。あの時、藤堂澄人が一言聞いてくれたら、あるいは私が一言聞いていたら、あんなに長い年月を無駄にすることはなかったわ。あなたが見たことが、必ずしも真実とは限らないの。田中行に直接聞いて、彼の答えを直接聞くべきよ」

夏川雫は九条結衣の言葉に強く刺され、一瞬どう反応していいか分からなくなった。

実は、彼女も何度も自分を慰めていた。もしかしたら誤解かもしれないと。

でも、どんな誤解なら、田中行があの女性に笑顔を向け、その女性にティッシュで口を拭かせ、そしてどんな誤解なら、田中行があの女性の手を握るのだろう?

それは彼女が実際に目にしたことで、田中奥様が作り上げた話でもなければ、田中奥様が編集した動画でもない。すべて彼女が直接見たことだった。

夏川雫は強く頭を振り、笑って言った。「もう彼のことは話さないわ。どうせ私たち別れたんだし、これ以上こだわる必要なんてないわ」

九条結衣は彼女の目の中に拒絶の色を見て取り、田中行の話をしたくないのを悟って、それ以上触れなかった。

夏川雫と食事を終えて、レストランを出たところで、藤堂澄人から電話がかかってきて、どこにいるのか尋ねられた。

「雫とショッピングモールにいるわ。もう夕食は済ませたわ。初はおじいちゃんのところにいるから、時間があったら迎えに行ってあげて」

電話の向こうで、藤堂澄人は明らかに不機嫌そうで、二言三言文句を言ってから電話を切った。

傍らにいた夏川雫は思わず笑みを漏らし、「藤堂澄人って結構甘えん坊なのね。私があなたの時間を少し奪っただけなのに、まるで捨てられた怨み妻みたいに私の文句を言うなんて」

九条結衣は夏川雫にからかわれ、思わず笑顔になった。「放っておいて。毎日捨てられた怨み妻みたいなのよ。誰だってお姫様でしょ」

「そうよ、私こそあなたのお姫様なんだから」

夏川雫も笑いながら、九条結衣の腕を組んでショッピングモールを歩き回った。

今回の結衣の帰国で、以前より笑顔が明らかに増えていた。藤堂澄人がこの期間、本当に多くの努力をしたことは明らかだった。