603.誰だって姫様でしょう

彼女は自分と藤堂澄人のことを思い出して……

九条結衣は眉をひそめ、夏川雫を見つめながら言った。「雫、田中行に直接聞いたことある?」

夏川雫は一瞬固まり、その後首を横に振った。

「私と藤堂澄人が一番いい例よ。あの時、藤堂澄人が一言聞いてくれたら、あるいは私が一言聞いていたら、あんなに長い年月を無駄にすることはなかったわ。あなたが見たことが、必ずしも真実とは限らないの。田中行に直接聞いて、彼の答えを直接聞くべきよ」

夏川雫は九条結衣の言葉に強く刺され、一瞬どう反応していいか分からなくなった。

実は、彼女も何度も自分を慰めていた。もしかしたら誤解かもしれないと。

でも、どんな誤解なら、田中行があの女性に笑顔を向け、その女性にティッシュで口を拭かせ、そしてどんな誤解なら、田中行があの女性の手を握るのだろう?