パンツを履いて知らんぷり

夏川雫は田中行の言葉の意味を聞き取り、九条結衣の前で何か言い出しそうな彼を恐れて、急いで口を開いた：

「話すなら話しましょう。2分だけ時間をあげます」

そう言いながら、九条結衣の手を離し、人の少ない方向へ足早に歩いていった。

田中行は顔を曇らせながら後を追い、通路の隅に着くと、夏川雫を後ろの壁に押し付け、その大きな体で彼女を押さえつけた。

「夏川雫、これはどういうつもりだ？」

怒りを抑えた掠れた声が、夏川雫の頭上から降ってきた。

夏川雫は田中行に冷たい壁に押し付けられ、二人の間の狭いスペースに息苦しさを感じていた。

眉をひそめながらも、表情は何気ない様子で言った：「どういうつもりって何が？」

田中行は彼女のこの無関心な態度に苦笑いを浮かべた。「あの夜のことを何とも思っていないのか？」

夏川雫はその言葉を聞いても気にする様子もなく、口角を少し上げて「酔った勢いでのことでしょう。どう受け止めればいいの？田中さんに責任を取れっていうの？」

彼女は田中行の細められた冷たい瞳を見て、笑いながら言った：「申し訳ありませんが、田中さんのような方に対して、私には責任なんて取れません」

「責任が取れないのに俺と寝たのか？パンツを履いたら知らん顔か？」

今の夏川雫は、まるで無責任な「クズ男」のように、無力そうに手を広げ、頑なな態度を見せた——

「どうしようもないでしょう？寝たのは事実だし、責任を取りたくないのも本当。まさか田中さんは私を殺すつもりですか？」

「お前……」

「私を殺すつもりがないなら、邪魔しないでください。大の男が遊び切れないなら遊ばないでください。女々しく女に責任を求めるなんて、知らない人は田中行に誰も寄り付かないと思うでしょう」

言い終わると、彼を押しのけた。上から目線の圧迫感がなくなり、夏川雫はすっきりした気分になった。

あの夜、彼女はバーで酔っ払い、同じく酔っていた田中行と出くわし、二人は気付いたら一緒に転がり込んでいた。

目が覚めた時、彼女は呆然としたまま、慌てふためいて逃げ出した。

一ヶ月以上経って、田中行も気にしていないと思っていたのに、まさか彼が追いかけてくるとは。

彼女はあの日のことを思い出したくなかった。あの引き裂かれるような親密さは、彼との4年間の時間を容易に思い出させた。