662.田中行は知った

夏川雫の子宮腫瘍切除手術は半月前に終わり、元旦前に退院することになった。

「退院したとはいえ、この休暇中はゆっくり休んで、無理して働かないで。何か必要なことがあったら私に言ってね」

九条結衣は夏川雫の痩せた体を見つめながら、つい念を押した。

夏川雫は少し困ったような表情で彼女を見て、呆れ気味に言った：

「藤堂澄人と再婚してから、あなたはますます中年主婦っぽくなってきたわね」

九条結衣：「……」

「もう十回以上も同じことを言ってるでしょう。約束するわ、あなたの言う通りに、しっかり体を休めるから、いい？」

夏川雫は指を立てて誓うような仕草をし、何度も約束した後で、やっと九条結衣は満足したようだった。

「もういいわ。あなたはもう一ヶ月近く私に付き添ってくれたんだから、早く旦那さんの元に戻りなさい。あの人がまた私のことを気に入らない顔をするわよ」

夏川雫は九条結衣に帰るよう促した。この前、田中行が病院に彼女を訪ねてきたことは九条結衣には話していなかった。それ以来、田中行は彼女の前に現れることはなかった。

夏川雫は思った。今度こそ、彼女と田中行の間には完全に何の関係もなくなるだろうと。

これからは、彼女は彼女の人生を、田中行は田中行の人生を歩み、お互いに干渉することはないのだ。

あの日の田中行の目に浮かんでいた失望と心痛を思い出し、夏川雫の目が一瞬曇った。

九条結衣は彼女の様子が悪くないのを確認して、安心して帰ることにした。

家に戻った時、藤堂澄人はまだ帰っていなかったが、デザイナーから二人分のイブニングドレスが届いていた。

「ドレス？どこかに着ていくの？」

「デザイナーの話では、若旦那様が送らせたそうです」

「そう」

九条結衣はそれ以上聞かずに、お義母様の所へ行って息子と少し遊び、お義母様とも少し話をしてから、自室に戻った。

九条結衣は誠和の件を宮崎裕司に全て任せていたが、すべての事を放置していたわけではなかった。

時々、重要なプロジェクトの参加や研究開発にも関わっていた。

それに加えて、以前から計画していた九条政への対抗策も、まだ本格的に始まっていなかった。

手元の仕事を片付け終わった頃には、もう十時頃になっていた。