684.良心が犬を食べてしまうほど

夏川雫は藤堂夫婦が彼女を置き去りにして行ってしまうのを見て、心の中で思わず「クソ野郎」と呟いた。

今、リビングには夏川雫と田中行の二人だけが残されていた。

先ほどまで藤堂澄人夫婦がいた時は、夏川雫のその居心地の悪さはそれほど強くなかったが、今や広々としたリビングには彼女と田中行の二人だけとなり、その不自然な空気が押し寄せてきた。

なぜかわからないが、以前は田中行に対して堂々としていられたのに、今は針のむしろに座っているかのように落ち着かず、すぐにでも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

そう思いながら、彼女は九条初の部屋へと向かって立ち上がった。

二、三歩歩いたところで、右手から田中行の皮肉めいた声が聞こえてきた——

「そんなに急いで何処へ行くんだ?俺の顔を見る勇気がないのか?」