心の中で彼女を憎んでいたにもかかわらず、彼女が見当たらないことに気づくと、心の奥底に寂しさが思わず湧き上がってきた。
薄い唇を固く結び、彼は前に進み出た。「おばあちゃん」
「行が来たのね。澄人から聞いたけど、来たくないって言ってたんじゃなかったの?」
トイレから出てきたばかりの夏川雫は、ドアを開けた途端に「行」という言葉を耳にして、心臓が激しく震えた。
体の横に垂らしていた手を無意識に強く握りしめ、何度も心の準備をしてから、やっと落ち着いた様子でトイレから出てきた。
田中行も当然彼女の姿を目にし、先ほど心に湧き上がった失望感は、この瞬間明らかに和らいだ。
夏川雫の姿を何気なく一瞥すると、彼はおばあさんの側に座り、「昨日は処理しなければならない仕事があったんです。今日は片付いて暇だったので来ました」