心の中で彼女を憎んでいたにもかかわらず、彼女が見当たらないことに気づくと、心の奥底に寂しさが思わず湧き上がってきた。
薄い唇を固く結び、彼は前に進み出た。「おばあちゃん」
「行が来たのね。澄人から聞いたけど、来たくないって言ってたんじゃなかったの?」
トイレから出てきたばかりの夏川雫は、ドアを開けた途端に「行」という言葉を耳にして、心臓が激しく震えた。
体の横に垂らしていた手を無意識に強く握りしめ、何度も心の準備をしてから、やっと落ち着いた様子でトイレから出てきた。
田中行も当然彼女の姿を目にし、先ほど心に湧き上がった失望感は、この瞬間明らかに和らいだ。
夏川雫の姿を何気なく一瞥すると、彼はおばあさんの側に座り、「昨日は処理しなければならない仕事があったんです。今日は片付いて暇だったので来ました」
「そう、せっかく来たんだから、仕事のことは考えないで、ゆっくりくつろいでね」
おばあさんも経験豊富で、田中行のこの口では言うものの本心は違うという様子をよく理解していたが、あえて指摘せず、ただこのように言った。
この時、飛行機のドアはすでに閉まっており、藤堂澄人と九条結衣夫妻も歩いてきて、ソファに座った。
夏川雫は九条初と九条二郎の隣に座り、何事もないかのように九条初と一緒に九条二郎と冗談を言い合い、時々楽しそうな笑い声を上げていた。
田中行はおばあさんの隣に座っており、もともと夏川雫とは少し距離があったが、この時、藤堂澄人夫妻が意図的であるかのように、わざわざ真ん中の席を選んで座った。
藤堂澄人は背が高く、座った途端に夏川雫の表情が見えなくなってしまった。
ソファは大きく、田中行は完全に席を変えることもできたが、明らかにその行動は不自然すぎるため、ただ心の中の焦りを必死に抑え込むしかなかった。
「目的地まであと5、6時間かかる。疲れたら、ゆっくり休んでください」
しばらくして、藤堂澄人がそう言った。
飛行機の中は広いとはいえ、家ほどではなく、リビングの他には寝室が2部屋しかなかった。
おばあさんは年齢が高く、休息が必要だったため、リビングで少し座った後、部屋に横になりに行った。
しばらくして、九条初も九条二郎を抱いてもう一つの寝室に行った。そこには以前から藤堂澄人が買っておいたたくさんのおもちゃがあり、時間を潰すには十分だった。