665.クルーズディナー

九条結衣は笑顔を浮かべ、その目の端から幸せが溢れ出し、顔全体に広がっていった。

元旦の夜、藤堂澄人は九条結衣を連れて、A市商工会会長の田中華南が主催するチャリティーディナーに参加した。それは、先天性の障害を持つ捨て子たちのための慈善基金を募るディナーだった。

ディナーは田中華南の私有の豪華ヨットで開催された。

招待されたのは、A市の各界で名の通った人物ばかりで、政界、財界、芸能界、文化界から、地位の高い人々が集まっていた。

藤堂澄人が19歳で藤堂グループの経営を引き継いで以来、晩餐会への出席は多くなく、たまに出席する時も妹を連れて行くことがほとんどだった。

今回、藤堂澄人が奥様の九条結衣を伴ってチャリティーディナーに現れた時、自然と多くの注目を集めることとなった。

特に九条結衣は、前回ネット上で大きな騒ぎになり、藤堂家の若奥様としての身分が明らかになっていた。

彼らのような上流社会の中では、最初藤堂澄人が妻の身分を隠していたとしても、一度この「藤堂奥様」の存在が明らかになれば、少し調べるだけで彼女の身分は分かってしまう。

九条信の嫡孫娘であり、九条会長九条政の娘であり、国内外で有名な歴史学者小林茂博士の外孫女。

このような身分なら、確かに藤堂澄人にふさわしい。

そのため、九条結衣に妬みを感じる人々も、特に非難めいた言葉を投げかけることはできなかった。

むしろ、藤堂グループの当主が妻を伴って出席したことで、多くの人々は取り入ろうとする思惑を持って、藤堂澄人の奥様に対して批判するどころか、近づこうとする者さえいた。

「澄人、来てくれたんだね。」

田中華南は白石七海を連れてやって来た。夫婦の仲は明らかに表面的なものだったが、自身が主催する晩餐会である以上、田中華南は最低限の体裁は保っていた。

当然、外のピアニストの恋人を連れてくることはなかった。

そのため、どれほど正妻である白石七海を嫌っていようとも、来場者との挨拶の際は彼女を同伴せざるを得なかった。

白石七海は前回の公の場で九条結衣に公然と反論され、今回彼女を見た途端、怒りが込み上げてきた。その目には九条結衣を灰にしてしまいたいほどの怒りの炎が燃えていた。

しかし、藤堂澄人がいることと、前回の彼からの警告もあり、白石七海はやはり慎重にならざるを得なかった。