665.クルーズディナー

九条結衣は笑顔を浮かべ、その目の端から幸せが溢れ出し、顔全体に広がっていった。

元旦の夜、藤堂澄人は九条結衣を連れて、A市商工会会長の田中華南が主催するチャリティーディナーに参加した。それは、先天性の障害を持つ捨て子たちのための慈善基金を募るディナーだった。

ディナーは田中華南の私有の豪華ヨットで開催された。

招待されたのは、A市の各界で名の通った人物ばかりで、政界、財界、芸能界、文化界から、地位の高い人々が集まっていた。

藤堂澄人が19歳で藤堂グループの経営を引き継いで以来、晩餐会への出席は多くなく、たまに出席する時も妹を連れて行くことがほとんどだった。

今回、藤堂澄人が奥様の九条結衣を伴ってチャリティーディナーに現れた時、自然と多くの注目を集めることとなった。

特に九条結衣は、前回ネット上で大きな騒ぎになり、藤堂家の若奥様としての身分が明らかになっていた。