彼女は手を上げて、彼の顔を押しのけ、ゆっくりと起き上がって座った。「私、どのくらい寝てたの?」
「そんなに長くないよ。お腹すいてない?何か作っておいたんだけど」
九条結衣は首を振り、ベッドから降りて、バスルームで身支度を整えて出てきた。
寝室は別荘の外に面しており、とても大きな床から天井までの窓が一面の壁を占めていた。
外からは中が見えないが、中にいる人間は外をはっきりと見ることができた。
砂浜にはまだ多くの観光客がおり、海の真ん中には人工の島があり、百人以上が釣りを楽しめるようになっていた。
青い海水は底まで透き通っており、白い細かい砂と相まって、海と空が一体となった美しい景色を作り出し、人々の心を魅了していた。
「私たちも外に出ましょう」
九条結衣は少し興奮気味だった。
「先に何か食べてから行こう」
藤堂澄人は彼女の手を引いて寝室の横に置かれているダイニングテーブルへと向かった。「まだ疲れてる?胃の調子は大丈夫?具合が悪いなら、今すぐ医者に診てもらおう」
「大丈夫よ、私自身が医者だから、わかってるわ」
九条結衣は手を振って、テーブルに座り、スプーンでお粥をすくって味わってみた。この味だけで藤堂島主が自ら作ったものだとわかった。
九条結衣の唇の端が思わず緩み、視線は依然として外の砂浜に向けられていたが、戻そうとした時、偶然外を通り過ぎる人影が目に入った。
彼女はお粥を食べる動作を一瞬止め、もう一度外をよく見たが、先ほどの見覚えのある人影は消えていた。
見間違えだったのだろうか?
九条結衣は物思いに耽るような表情で、もう一度砂浜を見渡したが、先ほど目に入った人影は見当たらなかった。
視線を戻した九条結衣は深く考えることもなく、黙々と茶碗いっぱいのお粥を食べ終えた。
「もっと要る?鍋にまだあるよ」
「いらないわ。私を豚にしたいの?」
「太ってる方が子供を産みやすいって聞くしな。豚みたいに太らせて、子豚をたくさん産んでもらおうかな...痛っ!」
足を九条結衣にひどく蹴られ、その後妻から不機嫌な視線を受けながら、彼女が部屋から出て行くのを見送った。
砂浜は今、暑くも寒くもなく、ちょうど良い温度だった。