689.女一人すら落とせない

彼女がドアを開けて出てきた時、隣の田中行もちょうど同じタイミングでドアを開けて出てきた。

田中行は黒いタンクトップとハーフパンツを着ていて、夏川雫と全く同じ色だった。一見すると、お揃いの服のように見えた。

二人はお互いの服装を見て、一瞬固まり、そして同時に視線を逸らした。

「結衣、準備できたわ」

「じゃあ、行きましょう」

「うん」

夏川雫は意識的に田中行の視線を避けていたが、藤堂澄人の傍を通り過ぎる時、彼に鋭い視線を向けられ、夏川雫は少し戸惑った。

九条結衣と夏川雫が別荘を出た後、藤堂澄人は不満と軽蔑の眼差しで田中行を見つめ、冷ややかに言った：

「チャンスを与えたのに、一人の女すら落とせないなんて、他人の奥さんに手を出させるなんて、お前は本当に役立たずだな！」

田中行：「……」

「自分の奥さんを管理できないくせに、俺のせいにするのか？」

別荘から100メートルも離れていない場所にビーチがあり、砂浜を歩くと、柔らかい砂が足の甲を覆い、心地よい感覚だった。

水際には、パラソルとデッキチェアが一列に並んでおり、九条結衣の二人はその中から二つの椅子を選んで横たわった。

島のアクティビティは、基本的にリラックスすることが主で、ここに観光に来る人々は、この場所の静けさに魅力を感じて選んでいるのだろう。

九条結衣の二人が横になってまもなく、誰かが彼女たちの側に来て、「お二人とも、こんにちは～」

突然現れた男性の方を見ると、顔の半分を隠していた黒いサングラスを外し、その端正な顔が現れた。

これは東洋人の顔で、細長い顎、切れ長の目、高い鼻筋、そして薄い唇をしていた。

どちらかというと柔和な顔立ちだが、女性的な印象ではなく、むしろ陰のある雰囲気を醸し出していた。

「こんにちは、何かご用でしょうか？」

九条結衣が先に口を開いた。この男性にどこかで会ったような気がしたが、どこで見かけたのか思い出せなかった。

男性は九条結衣が自分の顔を見ても、まったく感動した様子を見せず、淡々とした反応をしているのを見て、少し意外に思った。これは彼の予想とは少し違っていた。

彼女の隣に横たわっているもう一人の華奢な女性を見ると、黒いサングラスで顔の半分が隠れているものの、見える部分の容姿からして、並外れた美人であることが分かった。