690.「嫌悪」を顔に書く

綺麗な瞳の奥に冷たい光が宿り、目を細めて向かいの女を見つめた。

「九条さん、なんという偶然でしょう。旅行先でもお会いできるなんて」

目の前の女が先に口を開いた。艶やかな顔に嘲笑いを浮かべ、まるで九条結衣が自分を追いかけてここまで来たかのような言い方だった。

その人は他でもない、高橋夕だった。高橋夕を見たからこそ、なぜ黒崎信介に見覚えがあったのかを思い出した。

高橋夕と同時期にブレイクしたアイドル俳優で、確かな演技力で金鶏映画祭の主演男優賞も受賞し、その勢いは止まるところを知らなかった。

九条結衣は芸能界に興味はなかったが、黒崎信介の名前くらいは聞いたことがあった。今、同じ芸能界の高橋夕を見て、やっと思い出したのだ。

「本当に偶然ですね。知らない人が見たら、高橋お嬢様が私を追いかけているみたいですよ」