690.「嫌悪」を顔に書く

綺麗な瞳の奥に冷たい光が宿り、目を細めて向かいの女を見つめた。

「九条さん、なんという偶然でしょう。旅行先でもお会いできるなんて」

目の前の女が先に口を開いた。艶やかな顔に嘲笑いを浮かべ、まるで九条結衣が自分を追いかけてここまで来たかのような言い方だった。

その人は他でもない、高橋夕だった。高橋夕を見たからこそ、なぜ黒崎信介に見覚えがあったのかを思い出した。

高橋夕と同時期にブレイクしたアイドル俳優で、確かな演技力で金鶏映画祭の主演男優賞も受賞し、その勢いは止まるところを知らなかった。

九条結衣は芸能界に興味はなかったが、黒崎信介の名前くらいは聞いたことがあった。今、同じ芸能界の高橋夕を見て、やっと思い出したのだ。

「本当に偶然ですね。知らない人が見たら、高橋お嬢様が私を追いかけているみたいですよ」

九条結衣は平然と笑いながら言ったが、声音に滲む嫌悪感は隠そうともしなかった。傍らの夏川雫もそれを感じ取っていた。

この高橋夕が九条結衣を見る敵意のある眼差しを見ていると、この二人の間に何か確執があることは誰にでも分かった。

結衣がなぜ女優と確執を持つことになったのか、夏川雫は自然と藤堂澄人のことを思い浮かべた。この女優は藤堂澄人に惚れたのではないだろうか?

「どうしたの、結衣?」

夏川雫は心配そうに尋ねた。

「何でもないわ」

九条結衣は人前で高橋夕とこれ以上争いたくなかった。高橋夕は恥知らずかもしれないが、自分にはプライドがある。

それに、今回は本当に偶然の旅行での出会いなのか、それとも誰かが意図的に偶然を装って来たのか、それは皆、分かっているはずだった。

傍らの黒崎信介は九条結衣と高橋夕の間の事情を知らないようで、二人の言葉のやり取りに敵対的な雰囲気を感じ取り、急いで取り繕うように言った:

「九条さんと夕が知り合いだったとは、本当に奇遇ですね」

九条結衣は意味深な眼差しで黒崎信介を見つめ、唇の端に皮肉めいた笑みを浮かべた。その鋭い視線に、黒崎信介は居心地の悪さを感じ始めた。

彼が少し落ち着かない様子で鼻先を撫で、ぎこちなく笑いながら言った:「私たち四人に、九条さんと夏川さんを加えて丁度六人です。グループ分けをしましょう」