黒崎芳美は藤堂澄人の実母という立場を盾に、藤堂澄人を非難する時は正々堂々としていたものの、藤堂澄人のそのような眼差しに怯んでしまった。
特に藤堂澄人が六歳の時のことに触れた時は……
黒崎芳美の心臓が震え、目の奥に不自然な色が浮かんだ。
藤堂澄人は彼女とこれ以上話す気はなく、九条結衣の手を引いて立ち去ろうとしたが、船室から出てきた別の女性とぶつかってしまった。
その女性は黒崎芳美を探しに来たようで、彼女が藤堂澄人の前に立っているのを見て、急いで近寄ってきた。「お母さん、どうしてここにいるの?」
その女性が黒崎芳美を「お母さん」と呼ぶのを聞いて、九条結衣は少し驚いた。
その女性は九条結衣にとって見知らぬ人ではなかった。今エンターテインメント界で大ブレイク中の女優、高橋夕だった。先日、主演を務めた映画で主演女優賞を獲得したばかりだった。