藤堂グループは当時、藤堂澄人の父親である藤堂仁の突然の死により、大打撃を受けて倒産寸前だった。
年老いた祖母が十数年支え続け、十年前にようやく藤堂澄人が引き継いだのだ。
藤堂澄人はこの十年間で藤堂グループを再び頂点に立たせたが、鈴木大輔は藤堂澄人が数百億円もの金を使ってこの島を買うとは信じられなかった。
「つまり、自分から立ち去る気はないということですか?」
藤堂澄人は目を細め、抑揚のない低い声で言った。その声は、なぜか不安を感じさせるものだった。
「なぜ私が出て行かなければならないんですか?私もお金を払ってここに来たんです。タダで来たわけじゃない。それに、この島はあなたのものじゃないでしょう。何の権利があって私を追い出すんですか!」
鈴木大輔は自惚れた様子で顎を上げ、目には馬鹿げた挑発の色が浮かんでいた。
高橋夕の心は緊張していた。彼女は鈴木大輔ほど愚かではなく、藤堂澄人がそんな大げさな言葉を軽々しく口にするとは思えなかった。
彼がそれほど自信を持って言えるということは、彼らを追い出せる確信があるのだろう。もしかしたら、この島は本当に藤堂澄人のものなのかもしれない。
その可能性を考えると、高橋夕は無意識に拳を握りしめ、緊張が高まっていった。
すると藤堂澄人は嘲笑うように言った。「おっしゃる通り、この島は私のものではありません。」
藤堂澄人のその言葉を聞いて、高橋夕は密かにほっと息をつき、先ほどまで宙づりになっていた心が静まった。
背筋をちょっと伸ばし、心の中に正当な気持ちが芽生えてきた。
次の瞬間、藤堂澄人は続けた。「数時間前に、この島を私の奥様にプレゼントしましたので。私に追い出す権利がないとお考えなら、奥様に聞いてみてはいかがですか?」
高橋夕の先ほど落ち着いたばかりの心は、地に落ちて粉々に砕けた。
この島は、やはり藤堂澄人のものだったのか。
そして彼は、数百億円もの価値がある島を、あっさりと妻にプレゼントしたのだ。
高橋夕は九条結衣の口元に浮かぶ笑みを見て、心の中で酸っぱい思いが込み上げてきた。
あの女に何の価値があって、藤堂澄人と結婚できただけでなく、こんなにも愛されているのだろうか。
数百億円もの物を、言うが早いかプレゼントしてしまうなんて。