彼女は高橋洵の娘であることをずっと隠していた。知らない人は、彼女にはコネも後ろ盾もなく、一歩一歩這い上がってきたと思い込み、彼女に後ろ盾があるとも思わず、好き勝手に踏みつけようとしていた。
彼女は自分にスキャンダルが起きても仕事がなくなることは心配していなかった。結局、父親は芸能界でそれなりの地位があるのだから。ただ、自分が苦労して築き上げたイメージがこうして台無しになってしまうことを心配していた。
この時の高橋夕は、九条結衣のことを死ぬほど憎んでいた。あの賤女がどうしてこんなに下劣なのか。
彼女はまだ諦めきれず、藤堂澄人の方を見て、九条結衣にひどい目に遭わされた表情で澄人の同情を得ようとした。
しかし、藤堂澄人の視線は、一度も彼女の方を向くことはなかった。
さらに彼女の歯がゆいことに、藤堂澄人の九条結衣に向ける眼差しは、終始優しく愛情に満ちていた。