699.藤堂社長にヒモになってもらいたい

「藤堂さん、藤堂奥様、今回は確かに大輔と夕が軽率でした。藤堂奥様の機嫌を損ねてしまい申し訳ありません。みんな楽しみに来ているのですから、彼らにもう一度チャンスをあげませんか?せっかくの旅行なのに、こんな些細なことで気分を害するのはもったいないと思いませんか?」

黒崎信介の表情には、取り入ろうとする様子が見えた。

彼は全ての過ちを鈴木大輔と高橋夕の責任にしたが、鈴木大輔と高橋夕は今、九条結衣に追い出されることを本当に心配していたため、予想外にも自己弁護をしなかった。

むしろ、表情には弱みを見せるような雰囲気さえあった。

九条結衣は黒崎信介を見つめ、何を考えているのか分からないまま、すぐには拒否しなかった。

黒崎信介は九条結衣が黙っているのを見て、自分の言葉が通じたと思い、心の高ぶりを抑えながら、冷静に続けた:

「さっき、大輔を殴られましたし、今回はこれで許してあげませんか?」

それを聞いて、九条結衣の視線が鈴木大輔に向けられた。彼は本当に九条結衣に追い出されることを恐れていた。この島は藤堂澄人のものなので、たとえ実の父親を呼んでも、ここに居座ることはできないのだ。

今はこのあまを相手に弱みを見せるしかない。とりあえずこの数日を乗り切って、後で彼女を懲らしめる機会はいくらでもある。

だから、九条結衣が見てきた時、彼はすぐに顔の険しい表情を隠した。高橋夕でさえ、自分のぶりっ子な態度が九条結衣の機嫌を損ねることを恐れて、演技すらできなくなっていた。

九条結衣は黒崎芳美のことを思い出した。彼女は確かに鈴木大輔たちと一緒に来ており、明らかに藤堂澄人を目当てにしていた。

彼女は常々不思議に思っていた。黒崎芳美が何年も経って突然彼女の島主を探し出し、こんなにしつこく旅行にまで付いてくるなんて、純粋に母子関係を修復したいだけとは、九条結衣には信じられなかった。

よく考えた末、九条結衣は鈴木大輔と高橋夕を追い出す決定を変更した。

「わかったわ、今回だけよ。」

九条結衣が彼らを追い出すことを諦めたのを見て、鈴木大輔と高橋夕は密かにほっとしたが、今日九条結衣の前で受けた屈辱は、しっかりと心に刻んでいた。

藤堂澄人は九条結衣が突然考えを変えた理由が分からなかったが、その場では聞かず、ただ九条結衣と一緒に立ち去った。