705.すぐに他の男と付き合い始めた

言葉が落ちると同時に、彼は手の中の釣り糸を素早く巻き取り、大きな魚が水から釣り上げられた。

「この魚、すごく大きいわ!」

九条結衣は興奮して声を上げた。藤堂澄人は結衣がこれほど直接的に喜びの感情を表すのを見るのは珍しく、自分の気持ちも瞬時に彼女に感染された。

思わず、彼は彼女の肩を抱き寄せ、身を屈めて彼女の唇にキスをした。九条結衣の少し怒ったような眼差しの中、彼は声高らかに笑い出した——

「旦那様へのご褒美だよ」

結衣は彼に白眼を向け、続いて釣り糸を引っ張って、釣り針から魚を外した。

目の前に漂う魚の生臭い匂いに、結衣の胃の中で突然吐き気が込み上げてきた。眉をひそめながら、彼女は魚をバケツの中に入れた。

魚の生臭い匂いがなくなると、吐き気もすぐに収まった。

結衣も自分の体調がおかしいと感じていたが、それほど深刻ではなかったので、島の病院に行くつもりはなかった。そうすれば、そばにいる誰かがまた大げさに騒ぎ出し、他人の観光の気分まで台無しにしてしまうからだ。

この島にはレジャー施設が多く、釣り用の人工島だけでも、結衣たち二人がいるこの島以外にもたくさんあった。

彼らからそれほど遠くない人工島にも、今多くの人々が釣りをしたり魚に餌をやったりしていた。その群衆の中で、妬みと羨望に満ちた一対の目が、湖心島で戯れる二人の男女を見つめていた。

妬みの眼差しは、酸っぱさで燃えるようだった。

結衣は誰かが今、彼ら夫婦を見つめていることに気付かず、藤堂澄人と一緒にさらに数匹の魚を釣った後、岸へ戻ることにした。

「よくもやってくれたわね、夏川雫。私と別れたばかりで、もう他の男と付き合い始めるなんて」

夏川雫は黒崎信介を追い払おうとしたところで、田中行が舟から降りて、怒った顔で彼女の方へ歩いてくるのを見た。

彼女は田中行が急に怒った顔をしている理由を不思議に思っていたが、彼が彼女の前に来てそんな言葉を吐いたのを聞いた。

「もう別れたのよ。私が誰と付き合おうと、何人の男と付き合おうと、あなたに何の関係があるの?あなたは私の何なの、そんなに口出しして」

夏川雫は田中行の目から滲み出る冷たい視線を見て眉を上げ、表面は強気だったが、心の中では恐れが忍び寄ってきていた。

「夏川雫!」