黒崎芳美は藤堂澄人を見ると、目が輝き、顔に浮かべた悲しそうな表情をより一層演じ始めた。「澄人……」
息子が自分の方へ歩いてくるのを見て、彼女の前で立ち止まると思っていたが、予想に反して彼は彼女を一瞥もせず、そのまま通り過ぎて九条結衣の方へ向かった。
「大丈夫か、結衣?どこか具合が悪いところはないか?」
彼が戻ってきた時、黒崎芳美があの年増女が妻を強く押しのけたのを目撃し、心臓が締め付けられるような思いで、次の瞬間には妻を支えに行きたい衝動に駆られた。
幸い、妻は庭の假山を掴んで転倒を免れた。
しかし、駆けつけた時、妻の顔色が青ざめているのを見て、彼の心の中の殺意がより一層強くなった。
九条結衣はもう落ち着きを取り戻していて、お腹も黒崎芳美に押されたときほど痛くなくなっていた。