黒崎芳美は藤堂澄人を見ると、目が輝き、顔に浮かべた悲しそうな表情をより一層演じ始めた。「澄人……」
息子が自分の方へ歩いてくるのを見て、彼女の前で立ち止まると思っていたが、予想に反して彼は彼女を一瞥もせず、そのまま通り過ぎて九条結衣の方へ向かった。
「大丈夫か、結衣?どこか具合が悪いところはないか?」
彼が戻ってきた時、黒崎芳美があの年増女が妻を強く押しのけたのを目撃し、心臓が締め付けられるような思いで、次の瞬間には妻を支えに行きたい衝動に駆られた。
幸い、妻は庭の假山を掴んで転倒を免れた。
しかし、駆けつけた時、妻の顔色が青ざめているのを見て、彼の心の中の殺意がより一層強くなった。
九条結衣はもう落ち着きを取り戻していて、お腹も黒崎芳美に押されたときほど痛くなくなっていた。
藤堂澄人の心配そうな目と向き合い、彼の背後にある憎しみに満ちた二つの目を通して見つめ、九条結衣の視線も同様に冷たくなった。
全身から放たれる寒気は藤堂澄人に劣らないほどだった。
ふん!
この母娘はやり手だな。彼女を押しのけただけでは飽き足らず、島主の夫が帰ってきたのを見て彼女を陥れようとするなんて。彼女をお人好しだと思っているのか、それとも島主の夫を馬鹿にしているのか?
細めた目から冷たい警告の光を放ち、黒崎芳美母娘は彼女の視線と出会うと、なぜか恐怖を感じ始めた。
視線を戻し、彼女は藤堂澄人に安心させるような目配せをした。「大丈夫よ」
藤堂澄人は九条結衣の顔色を注意深く観察し、彼女が確かに先ほどより良くなっているのを確認してから、ゆっくりと身を翻し、死に急ぐ母娘の方を向いた。
藤堂澄人が振り向くと、その目から放たれる陰鬱さと冷気は、まるで地獄から来た修羅のように、彼女たちの命を取りに来たかのようだった。
先ほど九条結衣の視線に驚いた母娘は、藤堂澄人の眼差しに脅かされ、足がすくんでしまい、演技で作っていた青ざめた顔が、今度は本物となった。
「澄人……」
黒崎芳美が先に口を開いた。実の母親という立場を盾に、藤堂澄人は少なくとも自分に対して多少の顔は立ててくれるはずだと思っていた。
九条結衣が話し出す前に、先手を打とうとした。