藤堂澄人は最初、この厚かましい女を懲らしめてやろうと思っていたが、妻が何も言わなかったことに意外と思った。
九条結衣の顔を暗い眼差しで見つめながら、少し考えると理解できた。
仕返しを好む妻がこの年増女を見逃したのは、自分のためだったのだ。
心配と感謝の気持ちを込めて九条結衣の手を握りしめながら、実は外でこの女が自分のことをどう言いふらそうと気にしていないと伝えたかった。
今の地位まで上り詰めた以上、自分や周りの人間が思うままに生きられないのなら、何の意味もない。
しかし、考え直してみれば、妻が心配してくれているのに、こんな取るに足らない女のために妻を心配させる理由はないと思い、主張するのを控えた。
黒崎芳美も九条結衣がこんなに簡単に許してくれるとは思わず、目に驚きの色が浮かんだ。
息子が自分が九条結衣を押したところを見ていなければ、否認し通せると淡い期待を抱いていた。
どうせ自分は藤堂澄人の実母なのだから、証拠がない以上、息子も無理やり罪を着せることはできないはずだ。
死ぬまで否認する覚悟はできていたし、もし息子が無理やり罪をなすりつけようとするなら、息子の妻が実母を押したことを隠すために事実を歪めようとしていると逆に訴えることもできると考えていた。
しかし今、九条結衣が予想外にも追及を諦めたため、どう対応すればいいのか分からなくなった。
藤堂澄人の視線が彼女に向けられ、九条結衣に向けていた優しく愛情に満ちた眼差しは、一瞬にして鋭く恐ろしいものに変わった。
その鋭さと共に、明らかな苛立ちも見て取れた。
「いつまでもしつこく付きまとって、一体何が言いたいんだ?」
息子が妻にどう接し、実母である自分にどう接するのかを目の当たりにして、黒崎芳美の心は大きく揺れた。
その不均衡な感情が強まれば強まるほど、九条結衣を藤堂家の嫁にしておきたくないという思いが募った。
高橋夕という継娘のためでなくとも、この二人を引き離したいという気持ちは揺るぎないものだった。
しかし、今はその時ではない。
息子がこれほど九条結衣を甘やかしているのだから、今自分の本心を露わにすれば、息子の警戒心と嫌悪感を強めるだけだ。
そのため、心の中の不均衡な感情を押し殺し、目に宿った憎しみを隠して、低い声で言った: