藤堂澄人は最初、この厚かましい女を懲らしめてやろうと思っていたが、妻が何も言わなかったことに意外と思った。
九条結衣の顔を暗い眼差しで見つめながら、少し考えると理解できた。
仕返しを好む妻がこの年増女を見逃したのは、自分のためだったのだ。
心配と感謝の気持ちを込めて九条結衣の手を握りしめながら、実は外でこの女が自分のことをどう言いふらそうと気にしていないと伝えたかった。
今の地位まで上り詰めた以上、自分や周りの人間が思うままに生きられないのなら、何の意味もない。
しかし、考え直してみれば、妻が心配してくれているのに、こんな取るに足らない女のために妻を心配させる理由はないと思い、主張するのを控えた。
黒崎芳美も九条結衣がこんなに簡単に許してくれるとは思わず、目に驚きの色が浮かんだ。