手洗い場から出て、反対側を回ると、二階の客室へ通じる階段があった。
時間を考えると、九条結衣も顔を洗い終わっているはずだ。
そう思った矢先、結衣が誰かに支えられて手洗い場から出てくるのが見えた。彼女は給仕の格好をした男性の体にぐったりと寄りかかり、二階への階段へと向かっていた。
高橋夕の目が突然輝き、素早く鈴木大輔にメッセージを送った。
二階の客室で、鈴木大輔はすでに待ちきれない様子だった。思う存分楽しむため、彼も結衣と同じ薬を飲んでおり、興奮のあまり額の血管が浮き出るほどだった。
あの女がもう少し早く来なければ、本当に我慢できそうにない。
高橋夕からのメッセージを受け取ると、鈴木大輔の目は一層明るく期待に満ちていった。
しばらく待つと、部屋のドアが開いた。
「鈴木さん、お連れしました。」
入り口の男が肩に担いでいた女性を中へ押し入れ、親切にもドアを閉めてくれた。
藤堂澄人と田中行がパーティー会場に現れたのは、ちょうど社交ダンスの時間で、音楽は最初ほど活気がなく高揚感もなかった。
彼の顔色は異常なほど青ざめており、ホールに入るとすぐに手洗い場から慌てて出てきた夏川雫の方へ直進した。
身の周りには人を震え上がらせるような重圧が漂っており、見ているだけで肝が冷える思いだった。
夏川雫の表情も良くなく、目には焦りの色が浮かんでいた。澄人が来るのを見た時、救世主でも見たかのように目を輝かせた。
澄人の前まで急いで歩み寄ったが、彼女が口を開く前に、澄人が先に厳しい声で叫んだ。「結衣はどこだ!」
怒りのせいで思わず声が高くなり、ホールの穏やかな音楽が一瞬にして掻き消されてしまった。
全員が驚いた目で澄人の方を見つめる中、群衆の中にいた黒崎芳美は夏川雫の表情を見て、結衣が見つからないことを悟った。
暗がりに隠れた顔に、密かに得意げな表情が浮かび、すぐに緊張した様子で彼の方へ歩み寄った。
「どうしたの、澄人、そんなに顔色悪いわね。結衣が見当たらないの?」
彼女の顔に緊張の色が一瞬にして浮かび、そして心配そうに言った。
「どうしましょう、私さっき彼女にあなたへの伝言を頼んだのに、あっという間に姿が見えなくなってしまって。」