758.一体何を怒っているのか?

九条結衣の足取りは、思わず止まり、不安そうに藤堂澄人の側へと歩み寄った。

「澄人……」

「行こう」

藤堂澄人は結衣の言葉を聞く気はなく、彼女の手を引いて屋敷を後にした。

別荘に戻る道中、藤堂澄人は終始無言で冷たい表情を崩さず、結衣は彼が怒っているのを明確に感じ取った。抑えきれない怒りが周囲に漂い、結衣には無視できないものだった。

彼は何に怒っているのだろう?

結衣にはよく分からなかった。

黒崎芳美をあんな残酷な方法で処置したからだろうか?

それはありえないと思った。今夜の黒崎芳美の所業なら、殺したとしても藤堂澄人は何も言わないはずだ。

では一体何に怒っているのだろう?

結衣には分からず、別荘に着くまでずっと黙っていた。藤堂澄人は最後まで一言も発しなかった。結衣はついに我慢できなくなり、尋ねた:

「怒ってるの?」

藤堂澄人の足取りが一瞬止まり、振り返って冷たい目で彼女を一瞥すると、結衣の手を離し、無言で寝室へと向かった。

結衣:「……」

一方、夏川雫の方では。

黒崎芳美が連れて行かれた後、田中行と夏川雫もパーティーを後にした。

先ほどの出来事を思い出し、夏川雫は眉をひそめて言った:「なぜ黒崎って女を解放させたの?」

彼女はこの世にこんなにもひどい人間がいるのを初めて見た。

子供たちを放置して、他人の男の娘を育てるなんて、それは彼女の勝手だと理解することはできる。他人が口を出せる問題ではない。

でも、息子を何年も捨てておいて、継娘のために、こんな卑劣な方法で息子と息子の嫁を陥れようとするなんて、どういう了見なのか。

藤堂澄人と結衣はもちろん、彼女のような部外者でさえ、黒崎芳美のような下劣な女を打ちのめしてやりたくなる。

あのとき、給仕が別荘に結衣を訪ねて、黒崎芳美親子が薬を盛るよう買収したことを話したとき、彼女は驚愕した。

黒崎芳美のような老いぼれは人間の資格なんてない、畜生以下だ。

結衣がその時、計略に乗って黙っているように言ったので、彼女も同意した。

あんな下劣な女を、自業自得に追い込まないなんて我慢できなかった。

その後、彼女と結衣のあの会話があったが、それは柱の陰で盗み聞きしていた高橋夕に聞かせるためだった。