760.心が冷めた

母親の役割と父親の役割を比べてみると、やはり違いがあるものだ。

そう考えながら、彼女は乾いた唇を動かし、かすれた声で言った。「すみません、先に相談すべきでした……」

あなたの意見を……

後半の言葉を言い終える前に、藤堂澄人の「本当に俺のことを心に留めているのか」という言葉に遮られた。

彼の声に抑えられた怒りを感じ取り、九条結衣の心にも苦みが広がった。

やはり黒崎芳美のことなのか?

だから、彼女が薬を使って自分を台無しにしようとしたのに、仕返しをしてはいけないというの?

でも、あの時の彼女の潜在意識には、何をしても藤堂澄人は自分の味方でいてくれると信じていた。

彼女は目を伏せたまま、しばらく黙っていた。長い沈黙の後、少し意地を張るように口を開いた。

「ごめんなさい。」

「ごめんなさい?」

藤堂澄人は冷笑を浮かべた。「そんなに手際がいいなら、謝る必要なんてないだろう。」

そう言って、彼は九条結衣の横を通り過ぎ、浴室から出て行った。その皮肉めいた口調に、九条結衣は思わず眉をひそめた。

振り返って書斎へ向かう男の背中を見つめながら、彼女の目が暗く曇った。

彼女はもう何も言わず、その場に立ち尽くしたまま、心が少しずつ冷えていくのを感じていた。

しかし次の瞬間、書斎に入ったばかりの藤堂澄人が、再びドアを開けて出てきた。顔を曇らせながら大股で彼女の前まで来ると、怒り心頭だが彼女にどうすることもできないという様子で言った。

「今夜がどれだけ危険だったか分かってるのか?」

九条結衣は一瞬戸惑い、藤堂澄人の言葉の意味が分からないまま、彼の次の言葉を聞いた。

「もしお前を呼びに来たウェイターが、わざと黒崎芳美母娘の計画を教えたんだとしたら、お前はそのままあのワインを飲むつもりだったのか?」

この時、藤堂澄人はこの島の採用制度の厳しさに感謝していた。内部犯行を防ぐため、採用時には候補者の家族を三代上まで三代下まで徹底的に調査し、島の人々が簡単に買収されないよう確認していた。

しかし、人の心は測り知れない。どんなに万全の準備をしていても、予期せぬ事態は起こりうる。

今夜、島に侵入して彼を殺そうとした連中のように。

島のセキュリティがどんなに完璧でも、彼らは侵入してきたではないか。