749.彼女はまさにクズだ

ここで黒崎芳美の以前の身分を知っている人は少なかったが、いないわけではなく、数人がすぐに彼女のことを思い出した。

彼女だと気づいた後、心の中で衝撃を受けずにはいられなかった。

当時、藤堂仁の遺体が冷めやらぬうちに、黒崎芳美は二人の子供を置き去りにして姿を消した。誰も彼女がどこへ行ったのか気にしなかったが、まさか大音楽家・高橋洵の愛人が以前の藤堂奥様だったとは誰も想像していなかった。

よく考えてみると、高橋洵の側にいるこの愛人の出現時期は、黒崎芳美が藤堂家を去った時期と完全に一致していた。

すぐに、その場で黒崎芳美だと気づいた数人は、彼女を見る目つきに怒りと軽蔑の色を浮かべた。

どんな冷酷な女が、子供たちがまだ幼く、子供の父親が亡くなったばかりという状況で、子供たちを見捨てて他の男の側に行き、他人の娘の世話を二十年以上もするというのか。

当時の時期から見ると、黒崎芳美は明らかに早くから高橋洵と関係を持っていて、だからこそ藤堂仁が亡くなるとすぐに高橋家に行ったのだろう。

残念なことに、家政婦のように人の娘の世話を二十年以上してきたのに、正式な立場も得られず、最近になってようやく得たものだった。

黒崎芳美が突然得た立場と、彼女がこんな卑劣な手段で藤堂澄人の妻を陥れようとしたことを考え合わせると、皆すぐに事情を理解した。

高橋奥様という地位を得るために、この女は自分の義理の娘を陥れ、自分の息子に大勢の前で不義を着せ、もし九条結衣が本当に他の男と不倫現場を押さえられていたら、自分の息子がどんな目に遭うかなど全く考えていなかった。

彼女は考えたのだろうか?

いや、この女は絶対に考えていなかった。彼女が考えていたのは、高橋洵と継娘の機嫌を取るために、恥も外聞もなく自分の息子と義理の娘を陥れることだけだった。

この女にはまだ人間性が残っているのだろうか?

もし彼女に藤堂澄人という実の息子への配慮が少しでもあれば、このように義理の娘を陥れることなどできなかったはずだ。

人間のすることじゃない!

彼女は完全なクズだ!

以前は藤堂澄人の失態を見たがっていた人々も、今ではこんな極端で、奇怪で利己的な母親を持つ彼に同情的になっていた。