その言葉を聞いて、九条結衣の目の中の笑みが深まり、藤堂澄人の唇に近づいて軽くキスをした。「私も、あなたのことがますます好きになっていくわ、私の島主様」
彼女が自分のことを「島主」と呼ぶたびに、藤堂澄人は思わず笑みがこぼれた。今回も気持ちよく笑い声を上げた。
「もういい。今夜のことはこれで終わりだ。次にまた何も言わずに危険なことをしたら、許さないからな」
そう言いながら、手を上げて彼女の鼻先を軽くつついた。優しい瞳には、威圧感のない警告が込められていた。
「分かりました、島主様が今夜はこんなに怖いんですもの。もう二度とやりませんよ」
そう言いながら、結衣は素早く澄人の胸に飛び込んだ。嬉しさのあまり、少し強く抱きついてしまい、澄人は眉をしかめたが、結衣は気付かなかった。
結衣の頭を優しく撫でながら、「さあ、厄落としに一度シャワーを浴びておいで。私は書斎で少し仕事を片付けてくる」
「はい」
結衣は疑うことなく、澄人の胸から離れて立ち上がった。
彼女が離れると、澄人はすぐに寝室の隣の書斎へと足早に向かい、その足取りには一切の躊躇いがなかった。
結衣は彼の後ろ姿を見て、目に疑問の色を浮かべた。
そのとき、彼女の携帯電話にメッセージの着信音が鳴った。携帯を手に取ってみると、夏川雫からのメッセージだった。
夏川雫のメッセージの内容を見た瞬間、彼女の表情が一変した。
同時に、自分のTシャツの裾に、いつの間にかついていた薄い血痕に気がついた。
しかし、彼女のTシャツは少し長めで、しかも裾の部分だったため、先ほど立ち上がった時には全く気付かなかった。
なるほど...だから彼は急いで書斎に行ったのか。彼女から逃げるために?
「このバカ!」
彼女の気持ちを考えずに一人で危険なことをするなと叱っておきながら、自分が怪我をしているのを隠すなんて。
澄人は書斎に戻るとすぐにドアを閉め、適当に包帯を巻いていた傷口を押さえながら、顔面蒼白になっていた。
田中行に電話をかけた。「島の医者を書斎に呼んでくれ...」
そう言いながら一旦言葉を切り、痛みを堪える声に厳しさと断固たる調子を込めて続けた。「結衣には気付かれないように。医者には適当な理由を考えさせろ」