762.この悪党、悪くなった

むせび泣く声には、鼻にかかった音が混ざっていた。

こうなってしまっては、藤堂澄人はもう冷たい態度を貫くことなどできなかった。

特に、彼女が時折手を上げて涙を拭う仕草を見ると、藤堂澄人はもうじっとしていられなくなった。

急いで後ろから彼女を抱きしめ、声は柔らかくなっていた。「もういいよ、もういい。反省できたならそれでいい。次はこんなことしちゃダメだよ。」

九条結衣は黙って頷いた。藤堂澄人は抱きしめている体が微かに震えているのを感じた。明らかに必死で啜り泣きを堪えているようだった。

藤堂澄人の心は強く締め付けられるような痛みを感じた。怒る気など失せ、むしろなぜ彼女にあんなに厳しく当たってしまったのかと後悔していた。

「叱っているわけじゃない。ただ怖かったんだ。もし俺が少し遅れていたら、何かあったらどうするんだ?」