794.風のような女

「結婚式もなかったし、私たち知り合いだけが九条結衣が彼の妻だと知っているのよ」

「それに今回の炎上騒ぎだって、あなたのためじゃなかったら、なぜ澄人さんがこんなに時間を費やすの?」

高橋夕は黒崎芳美のことを信用できないほど愚かな女だと思っていたが、この分析には説得力があった。

そうだ、彼女のためでなければ、藤堂澄人はなぜこんなに急いで黒幕を暴こうとするのだろう?

結局、ネット上での非難は、ステマが九条結衣を罵るほかは、彼女を不倫相手だと非難するものばかりで、影響を受けたのは彼女だけだった。

黒崎芳美の言う通り、藤堂澄人が本当に九条結衣のことを大切に思っているなら、なぜ結婚式を挙げて、皆に九条結衣が藤堂奥様だと知らしめないのか!

この時、二人は藤堂澄人が特別に開設したツイッターアカウントで、唯一投稿した内容が全て九条結衣に関することだったことを完全に無視していた。

口を開けば「私の奥様」と言っているのに、まだ藤堂澄人の妻だという証明が足りないというのか?

しかし黒崎芳美と高橋夕の二人は、おそらく潜在意識の中で、藤堂澄人が表面上ほどには九条結衣を大切にしていないと信じたがっていた。そうすれば高橋夕に彼に近づくチャンスがあるからだ。

「夕、頑張って!澄人さんが今回あなたのためにここまでしてくれたってことは、チャンスは十分にあるわ」

黒崎芳美は高橋夕の目が輝くのを見て、すぐに自分の有用性をアピールし、父娘に追い出されないようにした。

「私は澄人が今、私のことを嫌っているのは分かっているわ。でも、どうあれ私たちは親子よ。親子に一晩越えの恨みはないもの。安心して、お母さんはあなたを藤堂家に嫁がせるために全力を尽くすわ」

高橋夕は黒崎芳美を軽蔑していたが、一つだけ正しいことを言っていた。彼女は藤堂澄人の実母で、藤堂澄人が彼女に対してどれほど感情がなくても、彼女に何かをするほど冷酷にはなれないということだ。

そうでなければ、島での九条結衣への策略の件で、とっくに手を下していただろう。

だから高橋夕も、もしかしたら自分が努力すればチャンスはあるかもしれないと思った。ただし、もう突っ走るようなことはできない。藤堂澄人のような男性を手に入れるには、じっくりと計画を立てなければならず、焦ってはいけない。