胸に飛び込んできた香り高く柔らかな体を感じながら、藤堂澄人の唇の端が、思わず上がっていった。
「何がそんなに嬉しいの?」
彼は笑顔で彼女の体を抱きしめながら、優しく尋ねた。
最近は「藤堂社長」や「藤堂島主」と呼ばれることが多く、妻が「旦那様」と呼ぶことは滅多になかった。突然、蝶のように自分に向かって飛んできて「旦那様」と呼ばれ、藤堂澄人は本当に驚いて、一瞬自分の妻ではないのではないかと思ってしまった。
しかし、抱きしめている女性が心の底から喜んでいるのは明らかだった。再婚後、こんなに子供のように喜んでいる姿を見るのは初めてだった。
九条結衣は彼の胸から顔を上げ、キラキラと輝く瞳には喜びが溢れんばかりだった。
藤堂澄人は何か嬉しいことを話してくれるのかと思ったが、彼女はにこにこしながら彼を見て言った。「別に何もないわ。あなたを見るだけで一番幸せなの」