848.所詮ただの歌手だ

しかし、高橋夕は虚栄心から200円の品物を200万円と偽って彼を騙し、小林家の皆を馬鹿にしただけでなく、私の孫娘に対して当て逃げまでするような破廉恥な真似をした。

これこそが小林お爺さんを最も怒らせた原因だった。

この一家は一体何をしているのか。こんなことになるとわかっていれば、この一家を招くべきではなかった。

「それは高橋お嬢様にお答えいただきましょう。」

竜野健二は高橋夕を見つめ、その笑顔には冷たさが漂っていた。

竜野健二という人物は、性格があまり良くなく、プライドが高く小心者で、しかも執念深かった。

高橋夕が公の場で偽物を売っていると疑いをかけたことで、彼は今までずっと恨みを抱えており、簡単には許すはずがなかった。

桃の花のように美しい双眸で、高橋夕を鋭く見つめ、一見穏やかな眼差しの中に、異常な威圧感が込められていた。