しかし今、誰も高橋夕の行動を見ていなかったにもかかわらず、現場には彼女のネックレスがあった。証人はいないものの、やはり面倒なことになりそうだった。
「結衣、よく考えてみなさい。あなたのネックレスをどこで失くしたの?誰かに拾われたんじゃないかしら」
小林お婆さんが口を開いた。その言葉は非常に直接的で、九条結衣のネックレスは誰かが意図的に拾って彼女を陥れようとしたのだと、皆に明確に伝えていた。
端渓硯は高橋洵が高橋夕に持ってきてもらって皆に見せたものだった。もし高橋洵が高橋夕に端渓硯を持ってくるように言わなければ、最後に端渓硯が壊れても誰も知らなかっただろう。
そのため、これらの各界の古狐たちは頭を巡らせてすぐに理解した。
この親子は偽物を買って自分の虚栄心を満たすだけでなく、主催者までも陥れようというのか?
ふん!よくもまあ。
元々皆が高橋洵という大才子に対して持っていた好印象は、この時点でほぼ消え去っていた。
端渓硯は高橋洵が鑑賞を提案したものだ。彼らは高橋洵が端渓硯の破損を知らなかったとは信じていなかった。
高橋洵は本当にこの件を知らなかった。元々は自分の娘に存在感を示させたかっただけなのに、こんなことになってしまうとは。
しかし、皆の彼を見る目つきから、高橋洵は彼らが父娘で九条結衣を陥れたと考えていることを悟った。
具体的な状況は分からないが、高橋洵は最近の娘が藤堂澄人の好意を得るためにやってきたことを考えると、本当に彼女が九条結衣を陥れた可能性があると感じた。
しかし、そう思っていても、高橋洵は少しも表情に出さず、むしろ小林お婆さんの言葉に対して、顔に不快感を浮かべた。
まるで小林お婆さんの遠回しな非難に不満を感じているかのように。
九条結衣も自分の考えを隠さず、言った。「多分トイレに行った時に、うっかり落としてしまったんだと思います」
「ふん」
九条結衣の言葉が終わるや否や、木村富子が冷笑い一つ漏らし、その表情には軽蔑の色が混じっていた。
「九条お嬢様はさすがですね。適当に失くしましたの一言で、人の贈り物を壊したことを説明できるとでも?」
九条結衣は得意げな木村富子の様子を見て、目を細めた。
この女、やっと自分の弱みを掴んだと思って、存分に優越感に浸っているのか?