887.音沙汰なしが良い知らせ

「お婆様、とりあえず向こうに行きましょう」

彼女の顔には悲しみの表情は見られなかった。血の気は失せていたものの、心の中の不安と悲しみを押し殺し、お婆様に見せまいとしていた。

片手でお婆様を支え、もう片手でお腹に触れながら、彼女は言った：

「この子は澄人が長年待ち望んでいた子です。私は必ず守り抜きます。何も起こらないようにします」

お婆様がまだ躊躇っていると、九条結衣は続けて言った：「お婆様、今国内にいても落ち着いて眠れません。むしろ向こうに行った方が、余計な心配をせずに済みます。そうでないと胎児によくないです」

お婆様は彼女のことを心配していたが、彼女の決意を見て、もう反対せず、しぶしぶ同意するしかなかった。

藤堂家のプライベートジェットは既に飛行場で待機しており、松本裕司も早朝から駆けつけ、彼女たちと一緒にアメリカへ向かうことになった。

松本裕司から、九条結衣は藤堂澄人が最近調べていたことを知った。彼が特別にアメリカに行ったのは、彼と同時に事故に遭った山田さんに会うためだった。

この数年間、山田花江も藤堂仁の飛行機事故の真相を調査し続けていたが、まさか今回の訪問でこのような大惨事に遭遇するとは思わなかった。

飛行機は12時間後にボストンに着陸した。

九条結衣たちは、ボストンの一流プライベート病院の病室で、藤堂澄人にとって母親のような存在である女性に会った。

山田花江は今、全身動かすことができなかったが、意識は戻っていた。

全身ギプスと包帯で覆われ、顔には血の気が全くなかった。

藤堂お婆様が病室に入ってきた時、山田花江は涙を流し始めた。「お義母様」

動こうとしたが、できなかった。事故で声帯を損傷していたため、今は声を出すのも非常に困難で、全力を振り絞ってようやく聞こえる程度だった。

起き上がろうとしたが、お婆様に止められた。「花江さん、動かないで。医者が言うにはあなたの怪我は重症です。何も考えないで。命が助かったのだから、今は体を治すことが一番大事です」

涙が山田花江の目から溢れ出た。彼女は自責の表情でお婆様を見つめ、声を上げて泣きたかったが、声帯が押さえつけられ、大きな声を出すことができなかった。

「お義母様、澄人は私を助けようとして事故に遭ったんです。もし...もし彼があの時私のことを気にしなければ、逃げられたはずです」