903.彼の遺産を相続する

高橋夕はこれ以上深く考えたくなかった。

藤堂澄人が事故に遭った時、彼女は心の中で悲しんでいたものの、九条結衣という嫌な女が未亡人になり、藤堂澄人の後ろ盾を失って、もう以前のように横柄な態度を取れなくなると思うと、数日間も他人の不幸を喜んでいた。

いつか九条結衣の前に現れて、彼女を徹底的に打ちのめしてやろうと思っていたのに、逆に打ちのめされてしまった。

九条結衣は彼女を無視し、黒崎芳美の方を見ながら続けた:

「だから、あなたがこの10%の株式を田中真斗に売るかどうかは、私にとってはどうでもいいことよ。分かった?」

九条結衣は黒崎芳美に「バカね」という視線を送り、そして背を向けて立ち去った。その後ろ姿は、相変わらず人を苛立たせるほど傲慢だった。

「そんなはずない!」

九条結衣が出て行った瞬間、黒崎芳美は信じられないという様子で叫んだ。

というより、信じられないのではなく、信じたくないのだった。

彼女はもともと、藤堂澄人の遺体が見つからず正式に死亡宣告された時、母親という立場で藤堂澄人の財産の一部を相続できると考えていた。

現在の国内相続法によれば、藤堂澄人の遺産を相続できる人物は、配偶者である九条結衣と、息子の九条初、そして母親である彼女だけだった。

彼女は数十年も彼から離れていたが、血縁的にも法的にも彼の母親であり、藤堂澄人の遺産を相続する資格は十分にあった。

彼女は藤堂澄人が正式に死亡宣告された時、名実ともに彼の財産の三分の一を相続でき、その時には50%の株式の三分の一、つまり26%の株式を手に入れられると考えていた。これらの株式を全て田中真斗に売れば、一生お金に困ることはないはずだった。

さらに藤堂澄人の私有財産もある。

藤堂島だけでも数百億円の価値があり、他の私有財産を加えればなおさらだ。

このお金があれば、高橋も高橋夕というお荷物も、彼女を神様のように扱わなければならなくなり、彼女の生活がどれほど快適になるかは言うまでもない。

しかし、藤堂家が正式に藤堂澄人の死亡を宣告するのを待つ前に、九条結衣から藤堂澄人が藤堂グループの株式を全て彼女に譲渡したと聞かされた。

そうなると彼女が期待していた追加の16%の株式は手に入らない!

株式は九条結衣に渡ったとして、他の私有財産はどうなるの?