904.1銭も手に入れられない

「だから、この間ずっと藤堂澄人の死亡が正式に宣告されるのを待っていたの?彼の遺産を相続するために戻ってきたの?」

九条結衣は心の中で抑えきれない怒りを押さえつけながら、冷たい目で黒崎芳美を見つめた。

九条結衣だけでなく、夏川雫でさえも黒崎芳美の今の興奮した反応の理由が分かっていた。

この世界に、息子の遺産を相続するために息子の死を願う、そんな母親が本当にいるなんて信じられなかった。

黒崎芳美は九条結衣にそう問われ、目に後ろめたさが浮かんだ。

あまりにも明らかで隠しようがなかったため、九条結衣は瞬時に怒りが頭に上り、手を上げて黒崎芳美の顔に平手打ちを食らわせた。

木村富子が単に人として下劣で口が悪いだけだとすれば、黒崎芳美と比べれば、木村富子の方がまだましだった。