897.藤堂澄人は完全に死んでしまった

夏川雫は彼女の一連の質問に言葉を失った。

「まだ何も決まってないのに、結婚の話なんて。前にも言ったでしょう、自然の成り行きに任せて、一歩ずつ進めばいいじゃない。」

夏川雫は九条結衣に自分と田中行との恋愛問題について話したくなかった。彼女が藤堂澄人のことを思い出して辛くなるのを恐れて、さりげなく話題を変えた。

「今日、広栄に新しいスイーツ店がオープンしたの。味がとてもよくて、甘すぎないの。あなたが甜品好きだって知ってるから、わざわざ誘いに来たのよ。」

九条結衣にはスイーツを食べる気分なんてなかったが、夏川雫が自分のことを心配して、わざわざ来てくれて、慰めようとしていることはわかっていた。

彼女の好意を無下にせず、頷いて承諾した。

「いいわ。」

しかし、二人がスイーツ店に着いて、気分が立て直る前に、九条結衣はもっと嫌な人物に出くわしてしまった。

木村富子も友達とスイーツを食べに来ただけなのに、九条結衣に会うとは思っていなかった。

この数日間は、おそらく彼女の人生で最も気分の良い日々だった。九条結衣の前でずっと我慢を強いられ、先日の小林お爺さんの誕生祝いの席では小林静香とその男に酷く侮辱されたこともあり、この期間は言うまでもなく辛かった。

しかし、神様も彼女の苦しみを見かねたのか、九条結衣の最大の後ろ盾である藤堂澄人に事故が起きた。

今でも藤堂澄人の行方は分かっていないが、ほぼ確実に終わったも同然だ。

九条結衣は藤堂澄人を失って、一体何になるというの?

特に今は、藤堂グループさえも持ちこたえられなくなってきている。

藤堂澄人も、藤堂グループも、九条グループも失った下賎な女が、以前のように傲慢な態度を取れるかどうか、見ものだわ。

今の九条結衣に、木村富子は少しも恐れを感じなかった。むしろ彼女の苦しみが足りないとでも言うように、口を開けば九条結衣の心の痛むところを突いた。

「スイーツを食べに来ただけなのに、あなたに会えるなんて、藤堂奥様とは縁があるようですね。」

九条結衣は木村富子を見ただけで腹が立ち、彼女と口論する気も全くなかった。

木村富子に一瞥すら与えず、スイーツ店の中に入ろうとした。