936.島主はあの島主のまま

松本裕司は自分のボスが全身を強張らせ、まるで痴漢に戯れられた後に拒みながらも期待している少女のように、顔を赤らめて期待に満ちた様子を見て、言葉にできない気持ちになった。

見ているうちに、松本裕司は黙って顔を拭い、頭を背けた。もう見ていられなかった。

奥様は変わってしまった。以前は兄の女だったのに、今では女の兄になってしまった。ああ。

九条結衣は藤堂澄人が無言で自分を見つめているのを見て、さらに催促した。「当ててみて?」

藤堂澄人の瞳は徐々に深みを増し、掌で九条結衣の指をより強く握りしめた。

しかし彼は何も言わなかった。ただ一つ確信していたのは、この女が以前、自分と結婚させることに成功し、しかも全財産を惜しみなく彼女の名義に移すことを快く承諾させたのは、きっと小悪魔で、その術もかなりのものだったということだ。

九条結衣は彼が自分の指をますます強く握り、全く離す気配がないのを感じた。

彼女は彼をからかうことに夢中になったかのように、試しに指を彼の掌から抜こうとすると、藤堂澄人の力がさらに強くなるのを感じた。

彼女はさらに二回ほど引っ張ってみたが、同じだった。

九条結衣の目の中の笑みが深まり、彼を見て冗談めかして言った。「手放したくないの?」

彼女はもう片方の手を何気なく藤堂澄人の肩に置き、言った。「一目惚れしたって認めないの?男の人ってみんなあなたみたいに口が重いの?」

藤堂澄人:「……」

松本裕司:「……」

奥様は本当に変わってしまった。

藤堂澄人は九条結衣にこのように「からかわれ」、喉がさらに渇くのを感じた。

喉仏が目立たないように二回ほど動き、彼は九条結衣の指を離し、ついでに彼女のもう片方の手を自分の肩から取り除いた。

「恥知らず」

そう言い残すと、彼は素早く洗面所へ向かった。

慌てて逃げ出す彼の背中を見て、九条結衣は上機嫌で眉を動かした。

島主は相変わらずの島主だが……以前より純粋になった。

九条結衣のお腹の子供は月が進むにつれて大きくなり、以前より眠くなっていた。

さっきまで藤堂澄人と戯れていたのに、彼が洗面所に行った後、彼女はソファに寄りかかって座り、藤堂澄人が帰国した後のことをどう処理すべきか考えていた。