飛行機は翌朝八時にZ国時間で藤堂家の裏庭にある飛行場に着陸した。
藤堂澄人が飛行機から降りた時、遠くに、使用人に支えられながら庭の入り口で彼を待っている老人の姿が見えた。
彼が近づいてくるのを見ると、すぐに使用人に手伝ってもらって前に進んだ。
大病から回復していないためか、彼女の歩みはよろよろとしていたが、歩みを緩めることなく、一歩一歩よろめきながら彼の方へ歩いてきた。
藤堂澄人はこの老人に全く記憶がなかったが、それは彼女が実の祖母だと判断することの妨げにはならなかった。
老人が足取りおぼつかない様子で彼の方へ急いで歩いてくるのを見て、藤堂澄人は眉間にしわを寄せ、急いで近寄って彼女を支えた。「お婆様」
藤堂お婆様は九条結衣から孫が記憶を失っていることを既に知っていた。孫が自分の身分を推測しただけで、本当に自分のことを覚えているわけではないと分かっていても、藤堂澄人が「お婆様」と呼んだ時、
思わず目に涙が溢れた。
彼が戻ってくる前に、たくさんの言葉を用意していたのに、この瞬間には一言も出てこず、ただ彼の手をしっかりと握り、何度か叩いて、今の興奮した気持ちを発散するだけだった。
「帰ってきてくれて良かった、良かった。この馬鹿者、こんなことになって、お婆様は本当に心配したのよ」
藤堂澄人は老婦人の真っ赤な目を見つめながら、山田花江に対する敬意とは違い、年下の者が年長者に対して抱く親しみと慕う気持ちを感じていた。
この自然な感覚は、記憶を消されても、心に刻まれた感情まで消すことはできなかった。
それは以前の九条結衣に対する態度と同じだった。
山田花江については、彼女への敬意と親しみは本物だったので、何度か怪しいと感じても、完全に付き合えない人物として扱うことはなかった。
この数日間、九条結衣は彼に多くのことを話した。20年以上前の父親の本当の死因を調査していたことも含めて。
また、実の母親が何度も彼に近づいてきた本当の意図についても。
その他にも、初めて調査して解決しなければならない事がたくさんあったが、今回記憶を消されたことで、多くの事が中断されてしまった。
そう、消された。
彼が言ったのは消されたのであって、失ったのではない。目覚めてまもなく、どうでもいい女性のことを覚えていることに気づいた時から、疑い始めていた。