945.藤堂瞳からの電話

藤堂澄人は老夫人と話をしながら、九条結衣に注意を向けていた。

彼女が自分を見ているのを目の端で感じ取り、その意味ありげな笑みを浮かべる様子に、彼は少し心が落ち着かず、思わず咳払いを二回した。

「よかった、よかった、よかった。あなたが帰ってきて、みんな安心したわ。結衣はこの間ずっと大変だったのよ。お腹に赤ちゃんがいるのに。おばあちゃんは本当に心配だったの。あなたは彼女をしっかり大事にしないといけないわよ」

老夫人が九条結衣の胎児のことに触れると、藤堂澄人の心の中で例の奇妙な嫌悪感が再び湧き上がってきたが、彼はその違和感を巧みに隠し、誰にも気付かれないようにした。

「はい、おばあちゃん」

老夫人は飛行機が離陸する前に、九条結衣から今日この時間に帰宅すると聞いていたので、早くから使用人たちに藤堂澄人と九条結衣の好きな料理をたくさん用意させていた。

今回の出来事で、老夫人は本当に怖い思いをした。

かつて息子が生きて帰ってこなかった。今回も、孫も帰ってこないのではないかと不安と恐怖に苛まれた。

今、藤堂澄人が目の前にいるにもかかわらず、彼女はまだ戦々恐々として、彼の手を握りしめながら何度も何度も言い聞かせた。

今回の病気で老夫人は大きく体力を消耗し、体調が完全に回復していないのに急いで退院したため、夕食後にはすっかり疲れ果てていた。

藤堂澄人は彼女の傍らに寄り添い、ずっと手を握り続け、彼女が眠りについてから初めて部屋を出た。

九条結衣は祖孫の時間を邪魔しなかった。老夫人が今回の件で相当怯えていることを知っていたからだ。

九条初はまだ老夫人の元から戻っておらず、彼女は部屋に座って、顔には少し物思いに沈んだ表情を浮かべていた。

今、彼女の島主は戻ってきたものの、彼らにはまだ多くの課題が待ち受けていた。

そんな時、彼女の携帯に見知らぬ番号から電話がかかってきた。

九条結衣は一瞥して電話に出た。「もしもし、どちら様でしょうか?」

電話の向こうの人は、しばらく黙っていた。九条結衣がいたずら電話かと思い始めた時、相手の声がようやく聞こえてきた。

「私よ」

その声を九条結衣は当然知っていた。

「藤堂瞳?」

九条結衣は低い声で言った。

電話の向こうで、藤堂瞳は黙り込み、長い間声を発しなかった。