藤堂澄人は彼女のその様子に思わず笑みを浮かべ、手を伸ばして意地悪く彼女の頭を撫で回し、髪の毛を乱してしまった。
次の瞬間、この動作がどこか見覚えがあるように感じた。
「お前みたいな恐妻も恥ずかしがるのか?」
九条結衣は彼に乱された長い髪を整えながら、藤堂澄人を見上げ、目を細めた。危険な気配が彼女の目から徐々に漏れ出てきた。
「誰が恐妻だって?」
藤堂澄人は彼女を怖がるどころか、むしろ口喧嘩をしているときの方が、二人の関係がより親密になると感じていた。
彼女との過去の記憶を失っていても、少しも違和感を感じなかった。
彼女が怖い顔で自分を見つめているのを見て、その目の奥に隠しきれない愛情が溢れているのを見て、藤堂澄人の目にも笑みが増した。
「俺の嫁だと認める人のことを言ってるんだよ」
「藤堂澄人、死にたいの!」
九条結衣は飛びかかり、手を上げて彼の端正な顔に向かって殴りかかった。
藤堂澄人は顔をかわし、彼女の拳を避けながら、同時に彼女の拳を掌で包み込み、笑みを浮かべながら彼女を見つめた。
九条結衣は手を引こうとしたが、藤堂澄人との力の差は歴然で、何度か引っ張っても離すことができず、むしろ彼が彼女の拳を包む力が少しずつ強くなっていくのを感じた。
優しい笑みを浮かべる彼の目と合わせると、九条結衣の目にも笑みが宿り始めた。
彼女が笑い出す前に、藤堂澄人が低い声で彼女を呼んだ。「嫁さん」
この呼び方は、記憶を失っていても違和感や言いにくさを感じさせないほど自然で、彼は彼女を腕の中に引き寄せた。
「この間、辛い思いをさせてしまったな」
九条結衣は最初「嫁さん」という言葉を聞いた時、心臓が小さく震えた。
この期間、彼女は深夜に彼のことを思い出して特に辛くなった時だけ、こっそり泣いていた。彼がまだ生きていると知ってから、アメリカに迎えに行き、国内に戻ってくるまで、藤堂澄人の前で一滴の涙も見せなかった。
彼女にとって、藤堂澄人が生きて帰ってきたことは喜ばしいことで、泣くべきではない、喜び泣きですらいけないと思っていた。
しかし今、藤堂澄人のその言葉を聞いて、この一ヶ月余りの冷たい視線や辛い思いが一気に押し寄せ、目が瞬く間に赤くなった。
彼女は藤堂澄人の目を避け、何も言わなかったが、目尻に光る涙を見て藤堂澄人の胸が締め付けられた。