「あなた……」
「話し合いの余地はない」
「ダーリン……」
「……」
藤堂ビル。
きちんと仕立てられたスーツを着て、几帳面な身なりの男が、アタッシュケースを持って藤堂ビルに入り、受付に名刺を差し出した。
「こんにちは、藤堂社長とアポイントメントがあります」
受付は名刺を一瞥して、「かしこまりました、少々お待ちください」
電話は上階の秘書室を経由せず、直接社長室につながった。
すぐに最上階から返事があった。
「こちらは社長専用エレベーターになります。ご案内いたします」
受付は男を社長専用エレベーターまで案内し、「このエレベーターは社長室に直通です。どうぞ」
「ありがとうございます」
この男は初めて藤堂グループを訪れたが、社長専用エレベーターを使用できることに多くの人が興味を示し、この男が誰なのか、密かに様々な推測が飛び交った。
その時、社長室内で、男は目の前のアタッシュケースを藤堂澄人に渡し、言った:
「社長、これらは御依頼の調査資料です」
「聞かせてくれ」
藤堂澄人は椅子にだらりと寄りかかり、目の前の男を見た。
「上の封筒には、9年前の金雲ホテルで起きた件についての調査結果が入っています。当時あなたを連れ去った者たちは全員死亡しています」
「九条さん、つまり現在の藤堂奥様ですが、私は技術を使って金雲ホテルの当時の監視カメラ映像を復元しました。彼女は確かにあなたがいた階に来て、10分後に立ち去っています」
ここまで聞いて、藤堂澄人の眼差しが冷たくなった。「つまり、九条結衣は確かに金雲ホテルにいたということか。当時の事件は彼女と関係があった可能性が高いということか?」
目の前の男は、数秒黙って目を伏せ、躊躇いながら口を開いた:
「現在の証拠から見るとそうなります」
藤堂澄人が冷笑して何も言わないのを見て。
男は彼を一瞥し、しばらく考えてから続けた:
「もう一つの資料は、ご依頼のファイナンス会社に関する調査結果です。この会社は設立から2年経っていますが、ずっと活動していませんでした。再始動したのはあなたの事故の直後、藤堂グループが資金調達を行う前でした」
「藤堂グループの融資資金はこの会社から出ています。法人代表は小林静香、藤堂奥様の母親です」