「大丈夫、制御できるわ」
九条結衣は真剣な表情で藤堂澄人の言葉を遮った。
「私のことを覚えていなくても、あなたの心が脳の代わりに判断してくれたように」
彼女は前に進み、彼の手を握って言った。「今朝、私を置いていかないでって言ったのに、今度はあなたが私を置いていこうとしているのね」
「違う、僕は君を置いていったりしない。ただ、何が起きているのか確認してからにしたいだけだ」
藤堂澄人は九条結衣の前では、いつも悪いことをした子供のようになる。彼女を不機嫌にさせることを恐れ、また彼女が突然去ってしまうことも怖かった。
だから、彼女の前では、藤堂グループの社長としての威厳は消え、いつも慎重に機嫌を取るようになっていた。
そして、彼がそうすればするほど、九条結衣の心は痛み、切なくなった。