982.妾は特に教養がない

彼女の言葉の中の「妾」という言葉は、木村靖子の表情を曇らせることに成功した。

「誰が妾だって言うの!」

「お姉さまお姉さまって連呼してるけど、妾になりたくないなら、なぜお姉さまって呼ぶの?」

彼女は意図的に靖子が私生児であることには触れず、このお姉さまという呼び方は、まさに妾が正室に対する呼び方そのものだった。

「あなた...私は彼女の妹よ!」

「妾は正室の前で自分のことを妹と称するのが常じゃない?」

夏川雫は引き続き知らんぷりを決め込み、それに怒った靖子の、まだ回復していない顔が更に歪んだ。

彼女は靖子の明らかに手術した顔を上から下まで観察して、「整形したの?」と言った。

靖子のまぶたが激しく痙攣し、否定しようとした矢先、夏川雫が続けて言った。

「どんなに綺麗に整形しても、この顔の皮を剥いで別の顔に取り替えたとしても、あなたが妾である事実は変わらないわ。キエ、妾よ、分かる?」

傍らで九条結衣はずっと黙っていた。木村家の母娘がまた何か愚かな真似をするのか見ていたかったのだ。親友が躊躇なく自分のために立ち上がってくれたことに、心が温かくなるのを感じた。

「あなた...」

「でも、藤堂澄人の妾の趣味は特別ね。まさか前科者を好むなんて」

「前科者」という三文字は、「妾」以上に靖子の顔を歪ませた。

「あなた...この下賤な...」

「妾は特に教養がないわね。口を開けば下品な言葉で人を罵るなんて」

夏川雫は冷ややかな表情で、靖子の言葉を突き返した。

「藤堂澄人は一度怪我して頭を打ったせいで、女を見る目が急激に下がったのかしら?もう選り好みもしなくなったの?」

夏川雫は弁護士出身で、元々口が立つため、口喧嘩も得意だった。

特に木村家の母娘のような厚かましい相手には、もっと酷い言葉で、彼女たちの捨てた面子を地に踏みつけることができた。

靖子はこの二人の親友は確かに似たもの同士で、一人一人が意地悪で口が悪いと感じた。自分は到底太刀打ちできないと。

木村富子は九条結衣がずっと黙っているのを見て、この親友が被害者を演じて周りの人に娘を攻撃させているのか、それとも何か別の魂胆があるのか、分からなかった。

いずれにせよ、この女は腹黒いに違いない。きっと靖子に対して何か悪だくみをしているはずだ。