「考えておくわ。」
「え?」
藤堂澄人の目が細くなり、眉を上げて、明らかに不機嫌になった。
「考えた結果、やっぱり島主だけを養うことにするわ。」
自分の島主が不機嫌になったのを見て、九条結衣はすぐにそう言い直した。
妻のこの強い生存本能を見て、藤堂澄人は思わず笑い出した。
長い腕で彼女を抱き寄せ、言った:
「俺もお前だけのヒモでいたいんだ。」
九条結衣は彼に抱かれ、彼の安定した心拍を感じていた。
記憶を失っても、なお全身全霊を彼女に委ねることができる。
九条結衣が心を動かされないはずがなかった。
記憶を失った人にとって、世界全体に対する信頼も安心感も欠けているはずなのに、彼は彼女を完全に信じていた。
彼女が言うことを、彼はすべて信じていた。
実際、山田花江のことについて、山田花江に関するすべては彼女が彼に伝えたことだった。
もし、彼が彼女を信じていなかったら、少しでも彼女を疑っていたら、彼女はあんなに簡単に山田花江の嘘を見破ることはできなかっただろう。
「島主。」
「ん?」
藤堂澄人はごく自然に返事をした。
「ありがとう。」
「何のお礼?」
藤堂澄人は少し困惑した。
「私の言うことを何の疑いもなく信じてくれてありがとう。」
彼女のこの感謝の言葉に、藤堂澄人は少し驚いた。
当然あるべき信頼に対して、なぜ彼女が感謝する必要があるのか考えたことがなかった。
彼女が自分の妻だと知った瞬間から、彼女を疑うことなど考えもしなかった。
彼にとって、それは当然のことだった。
だから、今彼女の感謝の言葉を聞いて、藤堂澄人は少し意外に思った。
「お前は俺の妻じゃないか?お前を信じるのは当然だろ?」
藤堂澄人は笑いながら言った。
他のことは置いておいて、彼は記憶を失ったとはいえ、性格は生まれつきのもので、記憶がなくなったからといって変わるものではない。
彼は何かの理由で自分を犠牲にするような人間ではなく、目の前のこの女性を愛していなければ、彼女に自分の子供を宿させることもなかっただろう。
彼は知っていた、自分が心から彼女を愛していることを、記憶喪失の前も後も。
九条結衣は彼のこの当然のような返答を聞いて、心が温かくなり、目も潤んできた。
唇の端が喜びの小さな弧を描き、彼女は藤堂澄人をもっとぎゅっと抱きしめた。