彼女はこっそりと藤堂澄人を観察していたが、藤堂澄人は時々腕を上げて時計を見ては、エレベーターの階数表示の変化を見つめていた。彼女のことは全く見ていなかった。
木村靖子は心の中で口をとがらせ、藤堂澄人に不満を抱いた。
本当に情緒のない困ったストレートな男だわ。
エレベーターは藤堂澄人のイライラした待ち時間の末、1階に到着した。
木村靖子は背筋を伸ばし、藤堂澄人にさらに近づいた。
エレベーターから出るときにも、彼の腕に手を回そうとして、二人の親密な関係を演出しようとした。
しかし藤堂澄人はそのチャンスを全く与えず、エレベーターを出るとすぐに会社のビルの外へと足早に歩き出した。
木村靖子は伸ばした手を恥ずかしそうに引っ込め、非常に気まずい思いをした。
気づかなかった人は何の反応もなかったが、気づいた人たちは笑いをこらえていた。
木村靖子はそのことに気づかず、彼女を叩いたあのフロント係の女を見かけると、鋭い視線を向け、目に警告の色を宿らせた。
そのフロント係も怖がらず、すぐに睨み返してきた。
彼女は最上階で秘書をしている友人から既に情報を得ていた。奥様が彼女を残すために、社長と直接対立したのだと。
結局、社長も奥様には手を出せず、今でも彼女はここにちゃんといるじゃないか。
人事部からも彼女を解雇するという通知は一切来ていない。
厚かましい下品な愛人風情が、奥様と争おうだなんて。
ふん!
木村靖子はそのフロント係が彼女を恐れないのを見て、腹が立った!
九条結衣というあの卑しい女に頼っているからこそ、そんなに傲慢になれるのだと分かっていた。
はっ!
この小娘、調子に乗ってるけど!
澄人が九条結衣と離婚して、彼女が藤堂グループから追い出されたら、あんたみたいな小娘がそんなに偉そうにできるかどうか見ものね。
木村靖子は彼女に皮肉な視線を送った後、藤堂澄人の後に続いてビルを出た。
彼女が出て行くと、ビル下階のフロント係数人が集まって、小声で議論し始めた。
「今見た?あの愛人が社長の腕を取ろうとして失敗して、社長も彼女を待たなかった。本当に気まずかったわね」
「あなたたちも気づいた?私だけの見間違いかと思ったわ」
「彼女は社長の新しいお気に入りだって言われてるけど、どうして社長は彼女に冷たいの?」