そこで、道乃漫は神崎卓礼に電話番号を教えた。
神崎卓礼は道乃漫の携帯に電話をかけ、彼女の携帯が鳴るのを聞き、彼女が取り出して切るのを見て、やっと安心した。
道乃漫は神崎卓礼の電話番号を控え、顔を上げて彼に尋ねた。「アリペイ持ってるでしょう?後でアリペイでお金を送りますね。」
そうすれば便利で、会う約束をする必要もない。
「……」神崎卓礼は「ふふ」と笑って、「持ってないよ!」
道乃漫:「……」
「じゃあ、教えてあげましょうか。」道乃漫は考えもせずに言った。
神崎卓礼は断ろうと思い、直接会って返してもらおうとしたが、少し考えて気が変わった。「いいよ。」
そして、自ら携帯を取り出し、「どうやるの?」
「まずApp Storeで検索して。」道乃漫は一つ一つ丁寧に教えていたが、神崎卓礼が知らず知らずのうちに彼女に近づいていることに気付かなかった。
道乃漫が下を向いて熱心にインストールを手伝っている間、神崎卓礼は道乃漫の横顔を見つめ、彼女の髪から漂う香りを嗅ぎながら、無意識に近づき、頭を徐々に下げていった。
幸い二人部屋とはいえ、二つのベッドの間にカーテンが引かれていたため、柴田叔母と武田志贵は神崎卓礼の動きに気付かなかった。
「これで、銀行カード番号を連携すれば完了です。」道乃漫が設定を終えて顔を上げた時、思いがけず神崎卓礼がこんなに近くにいることに気付いた。
その熱い唇が、彼女が顔を上げる動きに合わせて、額から鼻先まで擦れた。
顔中に彼の唇のミントの香りが染み付いた。
道乃漫は完全に固まってしまった。
彼は...なぜこんなに近くに?
後ろに下がろうとした瞬間、細い腰が彼の長い腕に囲まれ、そのまま彼の胸に抱き寄せられた。
神崎卓礼は彼女を地面から持ち上げ、くるりと回して壁の隅に押し付けた。
道乃漫が何か言おうとして口を開いた瞬間、彼の唇が押し寄せ、口の中に侵入してきた。
道乃漫は驚いて目を見開き、必死に彼の肩や胸を叩いた。
ここは病室で、カーテン一枚隔てて柴田叔母と武田志贵がいるのに。
それに、すぐ横には夏川清未が横たわっている。
彼女が昏睡状態とはいえ、道乃漫は後ろめたさを感じずにはいられなかった。
それなのに神崎卓礼は彼女をきつく抱きしめ、両腕も胸に押さえつけられて、押し返すこともできない。