医師と看護師はもちろん今すぐお金を受け取りたがっていた。そうすれば安心できるからだ。
道乃漫が断る前に、看護師は急いで神崎卓礼のカードを受け取り、「こちらで会計をお願いします」と言った。
仕方なく、道乃漫は神崎卓礼についていくしかなかった。
瑭子は眉をひそめた。彼もそんなに大金を持ち歩いているわけではなく、助けたくても手の施しようがなかった。
家族の署名と入院費用の問題が解決すると、医師はさっそく手術室に入った。
道乃漫が戻ってきたとき、手術室にはすでに手術中を示すランプが点灯していた。
瑭子の電話が鳴り、相手は何かを急かしているようだった。
道乃漫は顔をこすりながら言った。「瑭子、先に用事を済ませてきて」
「大丈夫だよ、僕は——」
道乃漫は首を振った。「心配しないで、私は大丈夫。ここで母が出てくるのを待たないといけないの。さっきあんなに大勢が道乃琪の写真を撮ろうとしていたから、早く戻って対処した方がいいわ。先を越されちゃうわよ」
今回瑭子が連れてきたのは自分の部下や友人だけではなかった。人手が足りないと思い、道乃琪の家族がここにいるという情報をわざと流したのだ。
同業者たちは道乃琪の写真が撮れないなら、せめて家族の写真でもと、次々とやって来た。
瑭子の考えは単純だった。短時間でそれほど多くの人を集められないので、できるだけ多くの人を呼ぼうとした。彼らの目的が何であれ、来てくれさえすれば道乃漫の助けになると考えたのだ。
「あなたがここにいても、私と一緒に時間を無駄にするだけよ。それ以外には何もできないでしょう。私はここで、ただ待つしかないの。安心して、母が出てきたら連絡するから」と道乃漫は彼を説得した。
彼女は瑭子に助けを求めて、彼の仕事の邪魔をするわけにはいかなかった。
さっきの電話では、相手の言葉は聞き取れなかったものの、とても焦った様子だった。
瑭子は歯を食いしばり、しぶしぶ頷いた。「わかった。何かあったら連絡してくれ」
そう言って、神崎卓礼を見てから、不安そうに去っていった。
心臓バイパス手術は小さな手術ではない。道乃漫は手を絞りながら、手術中に何か問題が起きないかと心配していた。
不安に駆られていると、突然目の前にホットココアが差し出された。心を落ち着かせてくれるチョコレートの香りが漂ってきた。