大澤依乃がそこまで強引でなければ、道乃漫もここまで頑なにならなかっただろう。
いつも人に敬意を払い、人からも敬意を払われてきた。
今、葉月香音のこの見せかけの態度を見ていると、吐き気がする。
「大澤さんは社長とアポを取られたんですか?」道乃漫は座ったまま反問した。
「そんな馬鹿な質問ね。大澤さんがアポなんて必要なの?神崎さんが直接お連れになった方で、社長のお友達よ」葉月香音は道乃漫を嘲笑うように見た。
大澤依乃は得意げに笑い、葉月香音の言葉に大変満足した様子だった。
「他のことは置いておいて、アポがないものはないんです。社長にお会いできるかどうかは、社長が会議を終えて出てこられてからの話です」道乃漫は冷たく言った。「私の言った通り、私は社長の指示でここで待っているんです。社長が出て行けとおっしゃるなら、二つ返事で従います。私はここの従業員です。他人が社長に代わって私に命令する権利なんてありません」
「道乃漫、何なのよあなた!」葉月香音は不機嫌そうに道乃漫を引っ張った。「大澤さんはお客様よ、その態度は何なの!」
「あなたも言ったでしょう、彼女はお客様だって。お客様ならお客様の立場を守るべきです。他人のオフィスに入って、従業員を追い出すなんて道理がありません」道乃漫は葉月香音に引っ張られて不快な思いをし、眉をひそめて立ち上がった。
葉月香音は媚びるような笑顔で大澤依乃に向かって言った。「大澤さん、本当に申し訳ありません。彼女は新入社員で、物分かりが悪くて。今すぐ連れ出します」
「早く連れ出しなさい。私の目障りよ!」大澤依乃は道乃漫を指差して言った。「私に逆らうつもり?何様のつもり、分かってないわね!神崎兄が出てきたら、あなたを首にしてもらうわよ!」
葉月香音は道乃漫を引っ張り出し、「道乃漫、あなた分かってるの?新入社員だからって、こんなことしていいと思ってるの!出て行けって言われたら素直に出ていけばいいじゃない。その態度は何なの!大澤さんに逆らうなんて?どこで待とうが待つのは待つでしょう?社長があなたに会議が終わるまで待つように言ったけど、オフィスの中で待てなんて直接言ったの?藤井助手が中に通しただけでしょう?社長が直接中で待てって言ったわけじゃないのに、鶏の一声で威張り散らして、笑わせないでよ!」