大澤依乃がそこまで強引でなければ、道乃漫もここまで頑なにならなかっただろう。
いつも人に敬意を払い、人からも敬意を払われてきた。
今、葉月香音のこの見せかけの態度を見ていると、吐き気がする。
「大澤さんは社長とアポを取られたんですか?」道乃漫は座ったまま反問した。
「そんな馬鹿な質問ね。大澤さんがアポなんて必要なの?神崎さんが直接お連れになった方で、社長のお友達よ」葉月香音は道乃漫を嘲笑うように見た。
大澤依乃は得意げに笑い、葉月香音の言葉に大変満足した様子だった。
「他のことは置いておいて、アポがないものはないんです。社長にお会いできるかどうかは、社長が会議を終えて出てこられてからの話です」道乃漫は冷たく言った。「私の言った通り、私は社長の指示でここで待っているんです。社長が出て行けとおっしゃるなら、二つ返事で従います。私はここの従業員です。他人が社長に代わって私に命令する権利なんてありません」