救急外来の入り口まで来ると、道乃漫は立ち止まった。「神崎若様、お気をつけてお帰りください」
神崎卓礼は眉を上げ、心の中で苦笑した。なんて薄情な子だ!
「ここまでで見送るつもりか?」神崎卓礼は道乃漫が反応する前に、彼女の手を掴んでしっかりと握った。
道乃漫は振り解こうとしたが、できなかった。
彼女は干笑いを二つ浮かべ、「そんなはずありません。ただ先に言っておこうと思って」
「ふん」神崎卓礼が彼女を信じるわけがない。
彼女のこの薄情な様子を見ていると、神崎卓礼は胸が痛んだ。
自分が先に落ちてしまったのが悪い。
この子が小狐だと分かっていながら、先に自分の心を開いてしまった。
道乃漫は彼の笑いに心が虚しくなり、距離を置きたいと思いながらも、この大物を怒らせるのが怖かった。
最後に神崎卓礼が言った:「行こう」
彼に手を引かれ、階段を下りた。
救急外来を離れ駐車場へ向かう途中、道路の明かりは暗くなり、足元の道がかろうじて見える程度だった。
「神崎若様、手を離してください。私一人で歩けます」彼女は逃げられないのだから。
神崎卓礼は聞こえなかったかのように、一言も発しなかった。
道乃漫は自分の手を振り解きながら呼びかけた:「神崎若様、神崎若様。神崎若様?」
神崎卓礼は目を細め、彼女の連呼する「神崎若様」という言葉が、どうしてこんなに耳障りなのだろうと思った。
神崎卓礼が突然立ち止まると、道乃漫は彼の大股で引っ張られていたため、足を止められず、そのまま彼にぶつかってしまった。
あたかも計算していたかのように、神崎卓礼はちょうど振り向き、道乃漫を引き寄せ、彼女は真っ直ぐに彼の胸に飛び込んだ形になった。
道乃漫が何かを言う間もなく、腰を片手で掴まれ、突然持ち上げられ、半回転させられて車のドアに押し付けられた。
道乃漫は緊張のあまり気付かなかったが、彼らが歩いているうちに、知らぬ間に神崎卓礼の車の側まで来ていた。
この時も彼女は、誰の車に寄りかかっているのか分からず、人に見られたら恥ずかしいと心配していた。
神崎卓礼は本当に彼女に胃を痛めさせられた。
こんな時に、彼女は気が散っているなんて!
この子はどうしてこうも人を怒らせるのが上手いんだ!
まさに歯がゆくて仕方がない!
神崎卓礼は思い切って両手で彼女の腰を掴み、持ち上げた。