最後、道乃漫も我慢できなくなり、彼のキスに夢中になってしまった。
いつ彼に放され、両足が地面に着いたのかも分からないほど、頭の中がぼんやりしていた。
「私はまだ承諾していないのに、あなたは——」
「もう一度言ってみろ?」神崎卓礼が危険な目つきで彼女を見た。
道乃漫は急に口を閉ざした。
この人、なんてことを!
神崎卓礼は彼女の髪を優しく撫でた。「帰りなさい。見送るから」
道乃漫は慌てて神崎卓礼を一瞥したが、彼の燃えるような黒い瞳と目が合うと、まるで火傷したかのように、すぐに視線を逸らした。
うつむいたまま急いで病院の建物に駆け込んだ。まるで誰かに追いかけられているかのように。神崎卓礼の姿が見えなくなっても、道乃漫の呼吸は依然として緊張で荒くなっていた。
彼女は悔しく思った。普段なら道乃啓元たちにも、会社で彼女を快く思わない同僚たちにも、いくらでも対処法があったのに。