上がってみると、夏川夢璃と神崎卓礼の隣以外に空席がないことに気づいた。
神崎卓礼はようやくスマートフォンから目を上げ、立ち尽くす道乃漫を見て、わざとらしく尋ねた。「どうして座らないの?」
道乃漫は藤井天晴の方を見やったが、藤井天晴は慌ててスマートフォンを取り出し、忙しそうなふりをした。
ふん!
道乃漫が覚悟を決めて夏川夢璃の隣に座ろうとした時、神崎卓礼が言った。「席がないの?じゃあ、ここに座って。」
彼は自分の隣の席を指さした。
夏川夢璃は腹が立った。最後に乗ればよかったのに、結局道乃漫に得をさせてしまった!
さっきの自分の言動が同僚に軽蔑されたのに、全く割に合わない!
道乃漫は大人しく神崎卓礼の隣に座った。
後ろに座っていた武田立则は、心の中で奇妙な感覚が強まり、思わず二人のシルエットを見つめた。なぜか不思議と似合っているように見えた。きっと目の錯覚だろう。
「今夜緊張している?」神崎卓礼は少し顔を傾け、優しさを隠そうともしない眼差しで尋ねた。
「大丈夫です。受賞できるかどうかわかりませんが、無理に求めることはしません。」受賞できれば、評価してくれたことに感謝し、できなくても何も失うものはない。
夏川夢璃は最後尾に座っていたため、二人の会話は聞こえず、今夜道乃漫もノミネートされていることをまだ知らなかった。
神崎卓礼は思わず優しく微笑んでしまう。道乃漫は何をしても素晴らしいと感じた。
今のように、心構えまでもが素晴らしい!
まだこんなに若い女の子なのに、どうしてこんなに落ち着いた心構えができるのだろう!
***
夜の授賞式はエクセレントで行われ、車がエクセレントの駐車場に停まると、一同が降りた。
「先にレストランで何か食べましょう。空腹のまま式に出るのは良くない。」神崎卓礼が皆に言った。
皆は驚き喜んだ。神崎卓礼がそこまで気を配ってくれるとは思わなかった。
実際、神崎卓礼は他の人のことなど気にしていなかった。ただ道乃漫を空腹にさせたくないだけだった。
他の人は道乃漫のおかげを受けただけだった。
藤井天晴の意図的な配置により、やはり道乃漫は神崎卓礼の隣に座ることになった。
夏川夢璃は嫉妬で死にそうだった。どうして道乃漫はこんなに運がいいの!