道乃漫が今夜授賞式に行くと聞いたが、夏川清未は彼女が受賞したかどうかを聞かなかった。プレッシャーをかけたくなかったからだ。
「お母さん、今眠い?」道乃漫は靴を履き替えて、夏川清未の腕を取った。
「もう眠くないわ。何かいいことでもあったの?」夏川清未は何となく察していて、目を輝かせ、眠気は完全に飛んでしまった。
「今夜、PR業界の授賞式に行ったでしょう?私、新人賞を取ったの!」夏川清未の前で、道乃漫は学校で賞状をもらって親に報告する少女のように嬉しそうだった。
「本当?トロフィー見せて!」夏川晴乃は驚きと喜びで、顔が輝いていた。
道乃漫は夏川清未の腕を取ったまま居間に座り、バッグからトロフィーを取り出した。「お母さん、見て。」
夏川清未は手を震わせながら、興奮してトロフィーを受け取った。「素晴らしいわ!私の娘はこんなに素晴らしいって、みんなが分かってくれるって知ってたわ!あなたは埋もれることなんてないのよ!」
「実は、このトロフィーを取れないところだったの。」午後に夏川清未に授賞式に行くと言った時は、詳しく説明していなかった。
「どういうこと?」夏川清未は驚いて、トロフィーをしっかりと握りしめた。まるでトロフィーが逃げてしまうかのように。
トロフィーは手の中にあり、結果は出ているのに変わることはないのに、夏川清未はまだ緊張を隠せなかった。
道乃漫は神崎卓礼が自分の枠を使って道乃漫をノミネートした経緯を説明した。
「神崎さんがいてくれて本当に良かったわ。」夏川清未はほっと息をついた。道乃漫が神崎卓礼のもとにいて、彼が見守ってくれているのは、本当に安心できることだった。
真相を知った今ほど、夏川清未が安心したことはなかった。道乃漫を神崎卓礼に任せることに、何の問題もないと確信できた。
「武田立则は...」夏川清未は首を振りながらため息をついた。「まあいいわ。他人なんだから、何も言えないわね。みんな自分のことを考えるものだし。」
以前病院で武田立则に会った時は、この若者の印象は悪くなかった。
むしろ、道乃漫と武田立则に可能性があるなら、それも良いことだと思っていたほどだ。
しかも知り合いで、武田立则は道乃漫の直属の上司だったから、特別扱いする必要もなく、少しでも気にかけてくれれば十分だった。