236 おやすみのキスはくれないの?

夏川清未は見ていなかったので、急いで彼女を寝かせようとした。「早く片付けて寝なさい。一日中疲れたでしょう」

「はい」道乃漫は夏川清未におやすみを言って、急いでメイクを落とし、支度を済ませると、すぐに部屋に戻った。

ベッドに横たわっても、すぐには眠れなかった。携帯を見ると、まだ神崎卓礼からのメッセージは来ていなかった。

約20分ほど経って、携帯が鳴った。

道乃漫は急いで手に取って見ると、神崎卓礼からの着信だった。

「家に着いた?」道乃漫は電話に出て、小声で尋ねた。

寝室は電気が消えていて真っ暗で、窓からの月明かりだけが差し込んでいた。

神崎卓礼の声を聞くと、道乃漫の心は温かくなった。

彼女は自分が本当に恋に落ちていることを知っていた。一挙手一投足が神崎卓礼に左右され、心も彼に引っ張られていた。

「うん、今帰ったところだよ。すぐに電話したんだ。まだ起きてたの?」神崎卓礼の低くて落ち着いた声が電話越しに聞こえ、夜の闇の中で特に温かく感じられた。

道乃漫は周りが暗いとは少しも感じなかった。まるで神崎卓礼のおかげで、周囲が温かく柔らかな光に包まれているかのようだった。

「うん、あなたの電話を待ってたの」道乃漫は布団を引き上げて顎まで覆い、温かく包まれた心地よさを感じていた。

電話越しに神崎卓礼の息混じりの低い笑い声が聞こえ、静かな夜の中で、その笑い声が彼女の耳にはっきりと届いた。まるで電流のように彼女の心に流れ込み、胸がじんわりとしびれるような感覚になった。

「じゃあ、もう安心できるね。無事に帰り着いたから」神崎卓礼は笑みを含んで言った。「早く寝なさい」

「うん、じゃあ...おやすみ」道乃漫は小声で言った。突然、彼との電話をこんなに早く終わらせたくないと感じた。

神崎卓礼と話している時、気づかないうちに口元に笑みがこぼれていた。彼女自身もそれに気付いていなかった。

もし誰かが今見ることができたなら、きっと彼女の顔に心の底から溢れ出る幸せが浮かんでいるのを見ることができただろう。

「もうおしまい?」神崎卓礼は眉を上げて尋ねた。

道乃漫が分からない様子でいると、神崎卓礼は言った。「おやすみのキスはくれないの?」

道乃漫は電話越しでどうやってキスするのかと思った。

少し考えて、携帯に向かってちゅっと音を立てたが、バカみたいだと感じた。