「みなさん、ありがとうございます」道乃漫は一人一人にお礼を言った。
高橋勉真は気さくで、賞を取れなかった落胆も全くなく、道乃漫が賞を取って自分が取れなかったことに妬みもなかった。「道乃漫、すごいじゃないか。広報部の面目を保ってくれたよ!」
「あなたもよ」道乃漫は心から言った。
夏川夢璃が入ってきた時、ちょうど皆が道乃漫を祝福しているところを聞いて、腹が立って仕方がなかった。
夏川夢璃は厚いファンデーションを塗っていたが、目の下のクマは隠しきれず、この数日間怒りで休めていないのが明らかだった。
道乃漫も彼女を感心せずにはいられなかった。週末を過ぎてもまだこんなに怒っているなんて、夏川夢璃の怒りは相当なものだ。
夏川夢璃は恨めしそうに道乃漫を見た。まるで自分が恥をかき、賞が取れなかったのは全て道乃漫のせいだとでも言うように。
道乃漫は見なかったことにして、自分のすべきことをしていた。
しかし道乃漫は長く静かにしていられなかった。携帯が鳴ったのだ。
見知らぬ番号で、道乃漫は広告の営業電話だと思った。「はい」
「もしもし、道乃漫さん、道乃さんでしょうか?」
「はい、そうです」道乃漫は不思議に思いながら「どちら様ですか?」
「ムーブセンチュリーと申します。当社で働いてみる気はありませんか?当社の広報部で最大限の成長機会を提供させていただきます」
道乃漫は、ただの新人賞を取っただけで、もう引き抜きの話が来るとは思わなかった。「申し訳ありませんが、今はそのような考えはありません」
「もう少し考えてみてはいかがでしょうか」
「結構です。ありがとうございます。現在の会社には大変お世話になっていますし、辞める気はありません」
「そうですか」相手は残念そうだった。「それは残念です。でも興味が出てきたら、いつでもこの番号にご連絡ください」
「はい」
結果として、道乃漫が電話を切ってまもなく、以前から道乃啓元に道乃漫のことを話していた加賀社長が、直接電話をかけてきた。
「加賀社長、ご評価とお誘いありがとうございます。でも私の今の成果とチャンスは全て神崎創映のおかげです。ですので転職は考えていません。はい、また連絡させていただきます」
電話を切ったばかりなのに、また携帯が鳴り出した。
次々と、全て引き抜きの電話だった。