元々は彼女を抱きしめたいだけだったのに、抱きしめているうちに、キスしたくなった。キスだけで、他のことはしないつもりだった。
しかし、キスしているうちに、止められなくなってしまった。
今、道乃漫の手を握り、指先から手首までマッサージして彼女をリラックスさせていた。
「早く寝なさい」道乃漫は言った。もう遅いし、彼は明日早起きしなければならない。
「先に寝て、もう少しマッサージしてあげるから」
彼がこんな風にしていると、道乃漫はもう怒る気にもなれなかった。「数日で良くなるから、早く寝て」
神崎卓礼はそれでもしばらく彼女の手をマッサージし続けてから、道乃漫を抱きしめて眠った。
***
翌日、神崎卓礼は車で道乃漫を学校まで送ってから、会社に戻った。
道乃漫は学校に着くとすぐに担任教員の研究室に向かった。
「高橋先生、休みをいただきたいのですが、映画の撮影に行くことになりまして」と道乃漫は言った。
担任は元々道乃漫の印象が良く、礼儀正しいと思っていたし、水野先生や矢尾先生からも彼女が努力家だと聞いていた。
しかし、道乃漫は入学してすぐに二日間休んだだけでなく、今日休暇明けで戻ってきたばかりなのに、また休みを取りたいと言っている。
それならば、なぜ学校に通うのか?
退学して家で撮影に専念した方がいいのではないか?
担任の表情はすぐに曇り、厳しい口調で言った。「道乃漫さん、本校では明確に規定されていますが、3年生以下の学生は演技の仕事を受けることができません。まだ演技を2年間しか学んでいないので、何も上手く演じることはできません。適当に外で撮影するのは無責任です」
演技が下手だと批判されれば、学校の評判も傷つく。
「この休暇は許可できません。あなたはまだ入学してどれくらい経ったのですか?なのにまた撮影に行きたいと?」担任は真剣に言った。「道乃漫さん、演技を学ぶなら着実に、一歩一歩確実に進むべきです。あなたには才能がある。目先の利益や名声のために、自分の演技の才能を無駄にして、大きなものを失わないでください。学校でしっかり勉強しましょう。その撮影はすぐに断りなさい」
「高橋先—」道乃漫が説明しようとしたが、ある声に遮られた。
「高橋先生」橘影乃が入ってきて、道乃漫がいるのを見て眉を上げた。「道乃漫、戻ってきたんだね」